2017年、日経平均がバブル崩壊以降26年ぶりの新高値をつけました。テレビではファンダメンタルズがいいから「上がって当然」のような話がされていること、みなさんもよく耳にしていると思います。

なおここで言う「ファンダメンタルズ」とは、 「株のファンダメンタルズ」 のことですが、ファンダメンタルズの対象はいろいろあります。

最初にお伝えしておきたいのですが、「株のファンダメンタルズ」と「日本のファンダメンタルズ」は、全くの別物です。月とすっぽんぐらい違います。

日本株の「ファンダメンタルズがいい」は嘘!

「日本株のファンダメンタルズがいい」は言い換えると、日本の会社が増収増益で絶好調であるという意味です。

日本の大企業は、日本のGDPのおそらく半分程度のシェアを持っていると予測できます。半分の大企業の景気が良いのであれば、日本のGDPも上がるはずですよね。

成長している他国のGDPを見れば、アメリカの成長率は5倍、中国は10倍以上になっています。これには届かないとしても、成長しているとしたら日本のGDPも最低2倍くらいにはなっていなければならないと思います。

しかし、日本の法人統計によると、企業の売上はこの20年間ほぼ横ばいで、成長は見られません。

つまり「日本の株のファンダメンタルズがいい、というのは真っ赤なウソ」なのです。

確かに好調な企業もあるのかもしれませんが、その一方で、好調な企業に食われて泣いている企業群もあり、従業員個人としては収入が減っている人がたくさんいるのが実態なのです。

だからこそ、成長率を平均すると横ばいにもなるのです。このような状況で果たして、株価は上昇するのでしょうか。普通なら上昇などしない、と思います。

自社株買いとは?それを推奨する経済産業省

私の知り合いの例を出すと、上場企業を退職して次の職場を探したときには、正社員の募集などなく、ほとんどが非正規の採用であったそうです。つまり、30歳を超えたおじさんには正社員の求人などないに等しく、泣く泣く非正規の社員を選択せざるを得なかった人が多数なのです。

では企業は、その社員の人件費の余剰分をどこに回したのでしょうか?

実は、上場企業のほとんどは、余剰資金を自分の会社の株を買う、つまり「自社株買い」を行って、自社の株価維持に努めているのです。

たった1パーセントの業績が上がっただけの会社の株価が暴騰するカラクリがこれで、これが現在の高い株価の本当の姿なのです。

実際の経済成長には役立っていないのならよくないことのように思うのですが、実は経済産業省が自社株買いを推奨していて、日本の平均株価を引き上げることに必死なのです。

経済発展への正しいサイクルが崩壊している

終戦後、日本の企業はお給料を支払って人を雇い、雇われた人が一生懸命働いた結果、世界に一目置かれるような目覚ましい発展を遂げました。

しかし現在の日本経済は、経済発展していくために必要なこのサイクルが断ち切られてしまいました。企業は、「景気が悪い」と従業員の待遇を悪くし、「景気が良い」と見せかけるために、会社の株価が上がる「自社株買い」を行っているのです。

自社株買いと株式の持ち合いとの違いは?

しかし、待てよ。この株の自社株買い、結局は昔、企業グループと銀行の間でやっていた、いわゆる「株式の持ち合い」と何が違うのだろう?と思う方も多いでしょうね。

内容的には実は、全く変わりません。バブル崩壊後にアメリカが日本政府に対して、「株式の持合いをやめよ」と言われたから、単に言い方を変えて自社株買いにしただけなのです。

株式の持ち合いや自社株買いを行う理由と効果は、浮動株が多いとM&Aや乗っ取り、買収の対象になる可能性があるためです。浮動株をなくすため、企業の経営者が自社を守るために行います。

昔の株の持ち合いと違う点は、昔は自社の株を買う前に企業が、従業員にも利益をしっかりと還元していたことでしょう。

現在の株価上昇は、会社に貢献した従業員に還元することはそっちのけで、会社経営者が自分の立場を守るために、自分の会社を私物化するために行った結果です。

会社が儲かれば(余剰金ができれば)ひたすら自分の会社に投資をして、株価を釣り上げた結果が今の株価です。

株価を高くしないと選挙で勝てない!?

政治家も役人も株価を引き上げたがる理由。それは、株が高くないと現在の政権を維持できないからです。

株価と為替を毎日のようにチェックをするのは、主には年金を受け取っている老齢者、この方たちに株価が下がったように見えてしまうと、与党に投票してくれなくなるからなのです。

老齢人口の増加による年金支給の先行き不安から、すでに働けない人にとっては株が高いことが重要です。

高値で推移していることにより生活が潤うと考えている彼らにとっては、株価が高いうちは次の投票も与党を選択するでしょう。与党以外の政党では、株価がどうなるか分からないからです。

ここから分かることは、株価が下がれば、与党への支持基盤層はいなくなるということにもなりますね。

「国を改革する」と叫んで「政権交代」を夢見て政党を立ち上げる方がたくさんいらっしゃいますが、肝心な政策に関して、特に株価対策に対しては、何も語ることができません。

今の野党のみなさんには「もっと経済のことを勉強してください」と言いたいです。そうすれば本当に政権交代も実現できるでしょう。

考えていくと結局一番無難で妥当なのは、自民党が進めている政策ということになり、それほど悪くない方法で日本を統治している、と考えることができます。

庶民は増税!企業は減税!企業優遇の政策が続く

しかし、今の与党、自民党政権は、企業に有利な政策を選ぶ傾向が伝統となっています。企業を優遇する結果は、みなさんもお感じの通りです。国の景気がよくなっても、消費者の景気はちっともよくならないのが実態です。


こちらの円グラフは、内閣府が発表している消費者マインド調査です。これを見ても、株価が急騰しても消費者のマインドなど一向に改善せず、景気が「変わらない」「やや悪くなる」「悪くなる」が8割を占めています。

ファンダメンタルズを日本語に訳すと「経済の基礎的要件」とされますが、今の与党の企業優遇策を考えれば「株のファンダメンタルズ」で儲かって当然です。

<出典>

内閣府 消費者マインド調査 2017年 9日20日~10月20日まで より(http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/open_chosa/result1710.pdf

具体的には、

1.労働市場の自由化 非正規雇用の増加

2.IT革命によっての経費削減、効率化

3. 法人税減税

これだけの措置をしてもらって企業が儲からないとすれば、経営者に手腕がないことになると思います。バブル崩壊後から利益が上がらないということは、日本全体の経営者層に問題があることになるでしょう。

この経営者の下で働いている従業員、消費者は、給与も上がらない、年金の支給も社会保険も保証が薄くなっていく、さらには増税、増税の嵐です。

残念な大企業と悲しき実情の日本

企業だけ優遇してもらって彼らは何をやっているかといえば、東芝に代表されるような、詐欺や粉飾です。昨今の企業の不正事件の報道では、その経営者がしかるべき罰を受けずに裕福な生活を送っていることには、いつも腹立たしさを覚えます。

庶民はいつも税金や社会保険料を一生懸命に払い続けているのに、大企業という虚飾に満ち溢れた肩書で詐欺や不正、弱い者いじめをすることが許容されている日本。

東日本大震災以降、日本は大きく復活すると言われましたが、この実態も優遇策を占拠して弱い者から詐取している者だけが富むという、たいへん残念な構図になっています。

ファンダメンタルズを勉強する前に、まずはこの悲しき日本の姿、現状を知っておく必要があると思います。