テクニカル分析だけでFXトレードする方でも、「金利」という言葉自体は、値動きに重要な影響を及ぼすものとして認識していると思います。例えば各国からの政策金利発表の前後には、相場が乱高下しやすいですよね。

たいていの方はそれぐらいまでの知識だと思います。ここまでしか知らなくても悪いことではありませんが、もう少し先まで知っておくと、相場で有利になれると思います。

金利には「実質金利」「名目金利」の2種類あることや、それらの違いが何であるのかまでをしっかり把握している方は少ないと思います。株式に詳しい方でも、違いまで知っている方は非常に少ないです。

「実質金利」「名目金利」の違いを知ることは、大変重要です。これを理解できるかどうかによって、ファンダメンタルズの壁を超えられるかどうかの差にもなってくるほどです。

実質金利とは一般的に表示されているもの

「実質金利」は、その名のとおり実質の金利のことです。日本銀行の公定歩合やFRBのFFレートのような、公表されている金利です。中央銀行から発表される金利は「政策金利」と呼びます。

また10年物の国債の金利のことを「標準金利」と呼びます。10年よりも短い期間の国債の金利は「短期金利」といい、10年以上の国債の金利は「長期金利」になります。

日本銀行やFRBなどの政策金利は通常、1年物の国債の金利と考えておくとよいです。

政策金利には、「1年物国債の金利をこのくらいの水準に置きたい」という誘導の意味もあります。

また、一度決まったらしばらく変化しない金利のほかに、日々変化していく金利もあります。

「市場金利(マーケット金利)」がこれにあたります。例えば銀行貸し出し金利の基準となるプライムレートや短期金利、長期金利。さらにこれらの大元となる「LIBOR」なども、マーケット金利に分類されます。

以上はすべて実質金利で、このほかにも書ききれないほど種類があります。実質金利について正確に学ぶには、大変な労力と時間が必要なのです。

名目金利とは物価上昇率を反映させた金利

さて、それでは「名目金利」とはなにか、ですが、ここが一番難しいところでしょう。できるだけ分かりやすくなるように解説してみたいと思います。

まず一言でいうと「名目金利」とは、表されている金利(実質金利)から、物価上昇によって発生した金利を引いたものです。

例えば、あなたが持っている100万円を銀行に預けると、「年3%の金利」がつくと仮定しましょう。

この場合、1年後に受け取れる利息は3万円ですね。この3%の内訳を考えてみます。

金利は、時間の経過に伴って物価が上昇することで発生します。1年の間に物価が上昇すれば、1年前に100万円で買えたものが1年後には買えなくなります。

100万円では買えないから金利で補填する、というのが経済学の考え方です。銀行預金に金利が発生する理由も、物価上昇の補填です。

なお銀行では、あなたから預かり受けた100万円を、他の顧客に貸し出して利息を得るという「運用」も商売です。お金を貸し出すための金利が2%だとすると、1%は銀行の利益になります。

あなたがお金を預けたことで受け取れる金利(利息)は、あなたのお金を銀行を通じて他人に貸し出した、その手数料であると考えることもできます。そして金利は物価上昇に合わせて上昇しますから、あなたが受け取る利息にも物価上昇の補填分がプラスされることになります。

「3%の金利」については、2%の物価の上昇があったということであれば、名目金利は「3%-2%=1%」ということになります。あなたが銀行にお金を預けたことによる名目の儲けも1%です。

なお物価上昇率については、経済指標の指数を参考にします。代表的なものとしては「消費者物価指数」ですが、あまり正確ではないという理由から、PCEやGDPを引く計算方法もあります。

経済学の基本的な考え方においては、例えば「世の中の物価の総額が2パーセント上昇すれば、GDPも自動的に2パーセント上昇する」ことになっています。それで物価上昇率として使われることもあるのですね。

ここでGDPの概念の話を少々

GDPの概念は「世の中で生み出される財やサービスの対価」ですがこの対価とは、値段がつくもののトータルの金額です。

たとえば、原料を100円で仕入れて、それを1000円で販売をしたら、GDPにカウントをされるのは原価を除いた900円であって1000円ではありません。

そして900円の内訳は100円の原料が製品として消費者の手に渡るまでに、手をかけた業者によって付加されていった価値の値段です。原料の仕入れ業者、加工業者、組み立て業者、販売業者などによって付加された金額の合計です。

なお、GDPには個人が企業からもらうお給料も含まれますが、お給料に原価はありません。個人は自分の時間を企業に売って、その対価がお給料になると考えられています。このため個人の所得はすべてGDPに計上されます。

ということは、もし国がGDPを増やしたいのなら、原価の発生しない個人のお給料が増えるようにすれば、手っ取り早いと感じませんか?

しかし日本政府は、「企業を儲けさせたら従業員が豊かになるだろう」という壮大な計画を立てて、企業ばかりを優遇しています。そして企業は、企業の儲けばかりを優先して従業員のお給料を増やす気はないため、個人までは裕福になることはなく、GDPもなかなか上がりません。

名目金利を現実的に身近な例で表すと驚愕の事実が

ではこのへんで「名目金利」を体感できる身近な例を示してみます。

2017年11月現在の銀行の普通預金金利は「0.01%程度」です。一方で日本の成長率は、「1.4%」物価の上昇は「0.9%」です。なお名目金利を考えるときの物価上昇率の数字は、いつも前年度比を使います。

この数字を見ると預金金利がいかに低いことが改めて分かります。それだけでなく、名目金利に重大なことが起こっているとお気づきでしょうか。

物価の上昇が0.9%で預金金利が実質0.01%ということは、先の説明と照らし合わせて考えると、「0.01%-0.9%=-0.89%」

「個人の預金の名目金利は、マイナスになっている」ことになります。

ECBが2014年に「マイナス金利」の導入を発表した時には大きなニュースになりました。

日本の銀行へも導入が進むのではないか、個人預金はどうなるのか、といった心配がされて議論もされましたが、その頃から日本の銀行金利はこのような状態でしたよね。ということは、心配以前に日本の個人預金の名目金利は、かなり前から既にマイナスだったのです!

「銀行に預けてもたいして増えない」どころか、物価上昇率を勘案すると目減りすることになってしまうのでした。だからこそ株式やFX、不動産などへの投資ブームが起こるのですね。

投資ブームのバブル崩壊に注意

このように、名目金利がマイナスの状態の間は、日本の投資ブームは消えないことになると思います。しかしここにも注意点があります。

不動産投資が盛り上がるにつれ、都内の土地の価格は上昇しており、賃貸物件の家賃も上昇せざるを得ない状態になっています。ところが借りる側の賃金は上がっていないため、上昇する家賃に対応することが難しい問題が発生し始めています。

この問題が大きくなると、どこかで現在の「不動産バブルは崩壊」することになります。その結果、不動産への投資ブームは終焉することになるでしょう。

株価についても同様のことが言えます。株高で日本企業は絶好調のように見えますが、この絶好調には歪みがあります。

本来企業の正しい姿は、利益を社会や従業員に還元することでお金が正しく流れ、経済も正しく回るものですが、現在の日本企業はそうではありません。

自社株に投資するという内部保留をしていることで株を上げています。さらに、このやり方で絶好調なのだから新たな研究開発する必要もない、という残念な姿勢。この状態が続けば、このバブルもまもなく弾けることになるのではないでしょうか。

本来であれば、企業が設備投資をして、研究開発をし、労働再分配も行わなければ日本経済がよくなることないのです。円安を望んだとしても、結局は円高になるのです。先行きがないのに株価が上昇していることに、投資家は疑問を持つべきだと思います。