学校で「日本の政策金利は公定歩合」と習った方は多いと思いますが、この公定歩合についてニュースで聞くことは最近少なくなっていると思います。

日本の政策金利は現在、みなさんもご存知のようにゼロかマイナスから全く動かない状況になっています。ニュースで聞かない理由は、報道する意味もなくなってきているからです。ただしこの状況からもし、いきなり動いたとしたら劇的な影響が出ることになるでしょうね。

さて、アメリカのFRB (連邦準備銀行・アメリカの中央銀行)がFOMC(連邦公開市場委員会)で発表する政策金利のことをFF(Federal Funds)金利といいます。

つまり、日本の公定歩合に相当するものが、アメリカではFFレート(フェデラル・ファンド金利)なのです。

政策金利と市場金利の違い

政策金利と市場金利を混同している人は非常に多いと思います。ここで整理してみましょう。

「政策金利」は、金融政策決定会合によって決定される金利のことで、毎日は変化しません。

緊急利上げや緊急利下げがあるときも、中央銀行総裁が気分次第で急に決めるというわけではなく、必ずこの金融政策決定会合で決定されます。このため、それほど大きい変化もないものと覚えておいてください。

また、政策金利は中央銀行が決定する専権事項のひとつです。中央銀行は、金利の変更と決定、そして通貨の供給量を決めています。

一方「市場金利」は、頻繁に変動するものです。例えばFXなどの買いポジションに付与されるスワップ金利は、毎日変化をしますので市場金利です。また国債の金利も市場金利です。

市場金利の種類は「長期金利」と「短期金利」

既に発行されている10年物国債の金利のことを「長期金利」といいます。ただし他国と金利を比較する場合は1年物の国債金利が基準とされ、これを「標準金利」といいます。

長期金利と短期金利の定義については諸説あり

なお、長期金利と短期金利の定義には諸説ありますが、国債と金利の世界では、1年以内の国債金利を「短期金利」と呼び、1年以上の国際金利を「長期金利」と呼んでいることが多いです。

稀に1年物金利を「標準金利」と呼び、それ以下は「短期金利」と呼ぶこともあります。どれがどれやら、なんだかややこしてですね。

しかし考えてみれば、銀行預金の金利も1年を基準に決定しますので、「1年物が標準金利」で正しいような気もします。

誘導目標金利に従うように動く市場金利

なお、中央銀行が決定する政策金利とは、実際の金利ではなく市場金利がこの水準に落ち着くということを望む、という中央銀行の声明のようなものです。「誘導目標金利」と呼ばれます。

政策金利と市場金利の相関性ですが、実際の市場金利は、やはり誘導されて政策金利に近い値に収まります。

この金利は国の経済を活性化させる指標として中央銀行が決定したことですから、上が決めたことには皆、従うのです。政策金利と市場金利の力関係は「政策金利>市場金利」です。

どこの国の政策金利も常に注目されていますが、その理由はこの力関係と市場金利のこの先の動向が分かることにあります。そして、政策金利はまた、1年物の国債の金利と近似値になっているケースがほとんどなのです。

なお平常時の金利はこのようになりますが、緊急時には例外で大きく乖離する場合もあります。

金利が上がる影響について深く考えてみよう

よく「利上げをするからその国の通貨や株は買い」という方いますが、この解釈は正しくありません。利上げされる背景や、どんなところに影響が出るかについて、よく考えてみてください。そうすれば正しくない理由も分かります。

利上げは、文字どおり「金利を引き上げる」ことですが、経済の拡大に伴い金利を引き上げるのは普通のことで、引き上げによってコストが増大することをも意味します。

金利の引き上げで影響が出るのは、金融機関から借金をしている「事業者」になります。

事業を拡大してもっと儲けるために借金をするわけですが、利上げでコスト増になると、事業の拡大もしづらくなり、ひいては経済が停滞してしまうことを意味します。

事業拡大のための借金と、するべきではない借金

なお、「借金」の目的もさまざまありますが、ここでは事業を拡大しさらに儲けるため、経済を拡大するための前向きな借金の話をしています。生活苦をカバーしたり浪費をしたりするための個人のカードローンの借金とは、意味が全く異なります。

個人の消費や浪費のための借金は、のちに利益が返ってくることはありませんので投資の意味はなく、経済の拡大にはつながりません。

借金することでさらに儲けられるものだけがいわばしてもよい、するべき借金なのです。

「利上げがあると景気が停滞する」が正しい

政府や中央銀行が保護するのはこの「事業性の借金」なのですが、金利が上昇することによって、返済のコストが増えることになります。

このため、借金してまで事業拡大しようとする企業は減り「景気が低迷する」と判断するのが正しい解釈になるのです。

このように景気の停滞や冷え込みを意味するものですから、金利を引き上げた国の株や通貨は「売り」の判断になります。

少しずつ上昇させて好景気を長く保ちたい意図も

なお中央銀行は、金利を引き上げれば一時的に景気は低迷をすることも承知です。しかし跳ね返す力があると判断して、金利引き上げを行うのです。

何事も、急激に熱くなれば急激に冷めるものです。つまり景気も、急激に上昇したら、急激に下がる可能性があります。

ゆっくりと上昇したのなら、その好景気も長続きするのです。中央銀行がいったん冷やしてまで再び上昇させようとする理由は、好景気をできるだけ長く持続させたいからなのです。

利下げがあったら、「買い」と判断する

逆に「金利引き下げがあったときには、買い」と判断することができます。

それまでは金利が高いせいでコストが大きかったことになりますが、それによって景気が悪くなっているため、コストを下げるために金利を引き下げるのだ、と考えると分かりやすいでしょう。

借金をもっている事業者は、金利の利払い負担が減ることによって支出も減るため、新たな投資もできるようになります。ですから景気も一時的によくなるのです。

日米金利差での為替決定理論も正しくない

日米の金利差が拡大すると円安、縮小すると円高という「価格決定理論」がありますが、これも個人的には、根本的に間違っていると思います。

実際、現状は日米の金利差が拡大しているにも関わらず、円高になっています。

金利差の理論を否定するつもりはありませんが、いつも有効というわけでもありません。しかし日本では日本銀行の政策委員という専門家までもがこの有効性を公言しています。

確かに、金利が拡大した瞬間に円安が進むのは事実ですが、持続性が全くない問題があるのです。通貨は時間の経過とともに逆方向に向かいます。金利差が拡大すると通貨は、円高方向に向かうと考えたほうがよいのです。

スワップ金利について

スワップ金利がどのようにして決まるかについての誤解も、非常に多いです。

例えば先物相場やオプション相場には、必ずスプレッド金利を参考にトレードをしなければいけないという暗黙のルールがあります。

そしてスプレッド金利がスワップ金利の基準金利で、通常は「日本の金利-米国金利」という計算式でスワップ金利が決定される、と言われていると思います。

しかし実際はそんなに単純ではなく、たいへん複雑な計算が必要になります。この計算式の認識の誤りが、日米金利差の拡大/縮小によって、円安や円高になるという、間違った解釈の背景にもなっていると思います。

自分で分析できるようになることがベスト

利上げや利下げの解釈については、一般的に流布されている情報をそのまま鵜呑みにするのはよくありません。

上記のような背景や影響について理解しておけば、ご自分で正しい判断ができるようになるでしょう。他人の話を信じて従って相場で大損することも防げるようになるのです。