みなさんは、なぜファンダメンタルズ分析を勉強しているのでしょうか?

マーケットをより正確に精密に分析することで、「実際のマーケットに先行して経済指標の変化を予知する能力を身に着けたい」といった目的があるのではないかと思います。

一言で「経済指標」といっても実際には種類がさまざまあるわけですが、主として「家計」「企業」「政府」の3つの部門と、そのほかに「貿易」の部門があります。

この分類方法は素人目にも分かりやすいのですが、これら単独で経済の変化を読み取るのは至難の業です。

なぜなら「主体の3つの部門」が複雑にからみあってこそ本来の経済指標としての分析結果を出せるからです。

基本中の基本:3つの指数を確認しましょう

経済に先行して指標の数字が変わるものを「先行指数」といいます。そして、経済と一致して上下する経済指標を「一致指数」といい、遅れて反応するものは「遅行指数」といいます。

これらの言葉はこの先頻出することになりますので、ぜひ覚えておいてください。

この3つの指標についてよく知れば、ファンダメンタルズは何を中心に勉強をすればいいのかも見えてくると思います。

 

先行指標を知ることでマーケットに「先行」できる

経済指標についてよく勉強することで、マーケットよりも「先行する指標」を見つけ出せるようになり、マーケットに先行してポジションの調整を行えるようになる。

このような結果を出せるようになることが、ファンダメンタルズ分析について勉強する意義であり理想でしょう。

例えば2008年9月から起こったリーマンショック直後に、アメリカの債務危機によってすべてのマーケットが暴落しましたが、このとき政府から出された対応策が「先行指標」です。

不況の間はお金も需要も滞る

不況の時には世に出回っている「リスクマネー」が消え失せて、民間企業が事業を継続するためにと銀行へ融資を申し込んでも、ほとんど断られてしまいます。

銀行としては融資先からの回収が滞っているのですから、他の会社に新しく事業資金を融資してあげられないのは当然のことです。融資した資金を返済してもらえなければ潰れるのは銀行です。

融資を再開するためには、焦げ付きそうな債券、不良債権を回収することが急務となります。

しかし、そうスムーズにいくはずもありません。その結果、回らない経済が余計に回らなくなるという悪循環を引き起こします。

政府や中央銀行はどうするか

そこで最後の助け舟として、新規の融資や事業継続への資金提供として政府や中央銀行がヘリコプターマネーをばらまく・・・というような動きになります。

なお「ヘリコプターマネー」とは、まるで空からお金をばらまくように、対価を取らずに大量の資金を市中に投入する政策のことです。

ばらまいたお金は返済の必要がないので、国民はじゃんじゃんお金を使います。しかしその弊害で当然インフレになりやすいというデメリットがあります。

ヘリコプターマネーは「ミルトン・フリードマン」というアメリカの経済学者が唱えた政策で、最近では元FRB総裁である「バーナンキ」がヘリマネに熱心な人物です。

「究極的な経済対策」とも呼ばれ、賛否両論ありその評価は大きく分かれます。2016年から日銀でもヘリマネをやるのでは?という憶測が広がり話題になりました。

景気回復の兆しを見極めることが重要

ただし、長い不況で景気も需要も低迷したとしても、その不況はずっと続くわけではありません。いつか不況の「終わり」がやってくるのです。

必ずどこかの業界に需要が生まれ、その需要が増えてくると企業は増産のために設備を増やしていきます。

そして、この企業の「設備投資」が増えてくるとやがて株価や為替レートが上昇し始めます。不況という悪い流れを脱して今度は上昇のトレンドがやってくるのです。

つまり景気が回復しつつあるという、このポジティブな兆候を事前に見極められるかどうかがきわめて重要になってくるのです。

リーマンショックの発生原因について

少々脱線しますが、リーマンショックが起こった際のアメリカ政府の対処については、相当な議論がされています。政府は銀行や証券会社、保険会社の救済を行いました。

しかし「消費者を事実上見捨てた」という点を見落とすべきではないでしょう。

アメリカの大手投資銀行グループ「リーマンブラザーズ」が破綻をしたことがきっかけではありましたが、そもそもリーマンショックが発生した原因は、低所得者層向けに貸付を行う住宅ローン「サブプライムローン」でした。

返済が滞る可能性が高い人々が利用者となるサブプライムローンに、信用格付け会社が「トリプルA」という高い評価を出しました。返済が滞ったときには、利用者がローンのおかげで得た住宅を売れば回収できると考えられていたのです。

そしてリスクが最も少ない「トリプルA」と評価されたことで、保険会社や金融機関がこぞって取り扱いました。しかし、ローン利用者からの返済はやはり滞り、また住宅を売っても返済完了しないほど不動産価格が下がってしまったことも重なりました。

このローンを取り扱った金融機関は次々と破綻し、大手リーマンブラザーズも破綻したことで世界経済を揺るがす事態にまで拡大したのです。

この経緯を鑑みると、信用格付けで「トリプルA」と評価されたことが悪かったのであり、サブプライムローン利用者も次々と自己破産に追い込まれたことからいわば被害者です。

この被害者は経済の根底を担う消費者でもあります。本来なら真っ先に救済されるべきだったのではないか?これが議論の元です。

経済学において「政府」「企業」「家計」が主体とされるうち、企業、つまりは銀行に救いの手は差し伸べられたものの、一番の被害者である「家計」には一切の補助がなかった、このことが今なおその後遺症が残る原因と言われています。

なお、この状況は現在のアメリカ政府も反省点として認識しています。次回このような危機的な状況が起こった際には、銀行だけでなく家計にも何らかの政策が盛り込まれることになるでしょう。次回以降にもし同様のことが起きてしまった際には、このあたりの経済指標も見極めていく必要があります。

次の大不況への対処方法は不安視されている

ただ、2017年11月現在のアメリカ政府は、今度不況に陥った場合、前回ほど有効な手段の余地が少ないことを非常に心配しています。

なおFRBのイエレン議長やそのメンバーに心配しすぎな感は、為政者としては当然のことで、実際に不況が起きる可能性自体は今のところは極めて低いと言えます。

日本はアメリカよりも危ないのに楽観的すぎ?

一方で日本は、楽観主義者が多いのか「日経平均新高値更新」や「円安」そして「アベノミクス成功」などと、さも何も問題が起きないかのような報道ばかりです。

しかし今後、もしリーマンショック級の不況や東日本大震災のような大震災が起こった場合には、有効な財政政策や、中央銀行による量的緩和も金利操作も何も手段はありません。

大不況に陥った場合には、最悪、日本政府の「デフォルト」の可能性があります。

現実としてもすでに破綻まであとひと押しという段階にいる日本ですが、このことを正しく認識している日本人は、果たしてどれぐらいいるのでしょうか。

日本は先進国で、これからも「先進国であり続ける」という思考は極めて危険な状態といえるのです。

現在の円安の状況もしっくりこない

日本が円安になるための最低限の条件は、「日本>アメリカ」となるはずなのですが、2017年の名目GDPを見ても実際の状況はそうではありません。

日本の「4倍以上」のアメリカの名目GDPの数字を見れば、この状況で円安になることは、何かに異常があるはずで素直に喜べないはずなのです。

にもかかわらず一般投資家も政府も日銀も円安を喜んでいる状況、疑問には思いませんか?このひずみには今後も注意していくべきでしょう。

注視していくべき先行指数

景気に先行して上昇する「先行指数」は非常に重要で、ファンダメンタルズ分析には必須です。

この先行指数には株価や為替も含まれます。また先ほど説明をしたように、企業の設備投資額や政府の政策などは、株価や為替よりもまた先行した指標となります。

なお、最初に指数の説明として「先行指数」「一致指数」「遅行指数」があることを示しましたが、最近は効率性の重視や合理性の進展によって情報のスピードが格段に上昇しているため、あまり差がなくなっていることも事実です。

一致指数なのに先行指数と一緒に上昇したりすることもよくあり、その解釈は非常に難しくなっています。

指数について覚えるための基本ロジック

「先行指数」「一致指数」「遅行指数」この言葉は、暗記するよりもロジックを知った方がすんなり覚えられるのではないでしょうか。

家計と企業の基本的な関係を理解すると分かりやすいです。例えば、あなたが大手企業に勤務をしているとして、あなたのお給料が上がるためには条件があります。会社が儲かっていること。儲かっていればその余裕資金を従業員に還元できるためお給料が上がります。

お給料が上がればあなたが自由に使えるお金である可処分所得が増え、買い物をして消費が増えます。小売業であるスーパーや百貨店、eコマースの売上が増えるのです。消費者関連の指標は最後に上昇する理由もこれで分かりましたね。

なお企業が儲かっていても、実際家計に還元されるまでにはけっこうなタイムスパンがあります。

タイムスパン以外に考慮すべき点

ここのところ日本の企業が連日最高益を更新していますが、それなのに従業員のお給料は増えないようです。タイムスパンがあるだけではなく、経済学どおりに「そうなるはず」とはいかないのが現実なのです。

日本のサラリーマンだけに限りませんが、雇い主の方が力が強く、従業員はお給料アップなどの待遇改善要求しても通りません。解雇を恐れて何もしない人が大半でしょう。

日本の重要文化財に指定された富岡製糸工場の労働環境の問題が一時期話題になりました。

「働けど、働けど、楽にならない我が暮らし」という与謝野晶子作の女工哀史の世界から、現在もあまり改善していないと言える面は日本に少なからずあるのです。

株価が高いことが何よりも重要な日本

再び脱線しますが、こんな状態で自民党が政権を担っている理由は、日本は株価が高いことが重要視されて、株価を高く維持できる政権が国民に支持されるからです。

団塊世代はすでに退職し、現在日本で一番人口が多いのは1971~74年生まれの団塊ジュニア世代です。

この世代も、もう10年もすれば退職の年齢になってきます。働けなくなった世代が頼るのは、年金ではなく株価です。株価によって人生が左右されると考えている世代は、株価を上げてくれる政権だけを支持します。

前政権で株価を下げてしまった民主党は、この先株価上昇に効果的な政策を示せない限りは政権に復帰できないでしょう。自民党から政権交代するときは、株価が大暴落するときになると思います。しかし結局二の舞にしかならず、自民党が復権するのでしょうね。政界の人材不足も甚だしいと思います。

参考までに、私は政治には一切興味がありません。選挙に行かないのはいい加減にやめようと、前回初めて投票に行き、すべて白票を投じてきました。選挙投票バージンの私、初めての選挙投票には少し感激を覚えました。

景気が回復し始めた時の指標の傾向

さて、経済学的な考え方に戻ると基本ロジックは、不況期の後半には不況を乗り越えるべく企業が設備投資をはじめ、社会のお金が回り始めることで景気が回復していく、そこから株価や為替が上昇をするという流れになります。

そして企業が儲かって余裕が出たらみなさんの給料が増えます。さらにもっと余裕があるか人材不足の必要に迫られると、企業は新しい人材の雇用を始めます。

FX投資家が最も注目する毎月1回のアメリカ雇用統計の発表。新規雇用数が20万人以上だと景気が良いことを示します。この数字に表れる頃にはそのほかの指標はすでに良くなっています。

雇用が増え始めるとスーパーや百貨店、ネットショップ等の売上が増え始め、その結果として「一致指数」が爆発的に上がります。

さらに好景気循環のときには、沈んでいた先行指数も上昇し始め、景気のピークのときには一致指数の上昇とともに先行指標も上昇を始めます。

現在の景況感では、一致指標が上昇をして、先行指標が沈んでいるという状態です。「この景気の高さはピークではない」と判断をすることができます。

日本は株価と景気の実態に矛盾が生じている

現在の日本企業は、従業員や社会に還元するべき利益を還元せずに、そのお金で自社株を買って自社の価値を高めています。自社内で資本を効率化しているから株価が上昇しているのです。

さらに最高益も更新し続けて会社の価値がどんどん高まっても、従業員のお給料が増えないままでは消費に使えるお金も少ないまま。株価と会社だけ景気がよさそうでも、消費者は景気が回復したと感じることはできません。

企業には企業の言い分もあるとは思いますが、剰余しているお金があるなら、自社の価値を高めることよりも、従業員へのお給料や株主への配当金などで積極的に還元することのほうが、経済学的には正しいやり方でしょう。

利益を社会に向けて還元することで消費を促せば、回りまわって自社の商品も買ってもらえることになりさらなる会社の儲けにつながります。

このような、社会全体が豊かになれるようなお金の流れ方に変えていかないと、本当の景気回復はないのです。

株価が上昇したから「アベノミクス成功」、しかし実社会の景気は回復が感じられないという大きな矛盾があります。アベノミクスという金融緩和は本当に成功と言えるのでしょうか。

違和感さえ解消されれば、過去のバブル期にあったような日経平均36000円超えや1ドル200円という状況も、素直に期待して将来に向けた投資ができるのでしょうが、この違和感がなくならない限りは、弱気一辺倒となることでしょう。

金融緩和政策にはモラルハザードの面も

金融緩和の効果はさまざまありますが、一面にはみなさんが歴史で勉強した「徳政令」と同じことが言えます。借りたお金を返さなくてよいということは、究極のモラルハザードなのではないでしょうか。

無責任が許される社会には不法者が増えることになります。

昨今世間を騒がせている大企業の一連の不祥事やオレオレ詐欺、税金還付金詐欺などの犯罪が増えていることも、すべてつながっているのではないでしょうか。

このままでは、日本の将来は暗いと言わざるを得ません。

突き詰めると日本はいずれ「後進国の仲間入り」をしてしまう可能性さえあると思います。

リーマンショック級の不況も再び必ず起こる

なお今の景況感が続いていけば、リーマンショックのような大不況も再び必ず起きると思います。人間というものはときどき「やりすぎる」もので景気拡大もそうです。過ちも繰り返します。

突然の経済ショックが発生したとき、それまでの過程のバブルという蜃気楼の中で実力以上の価値で買われた株や為替は、破裂してなくなってしまいます。

そうなってしまったときには、政府の支援策が先行指標になるのです。

ファンダメンタルズを長く勉強していると、あるべき姿をきちんと描けるようになり、このような将来の見通しまで見えてきます。このあとは詳細な経済指標の解説をしていきたいと思います。

経済指標を覚えること非常に大切で、理解することができればこの先の投資にも大きく役立つことでしょう。ぜひご期待ください。