「自動車の販売台数が国の経済に大きく影響する」と聞いて、驚く人は多いと思います。

しかしこれは事実です。自動車のうち特に新車の販売台数は、実際に景況感を大きく反映しています。

日本の場合、2014年には経済全体に「2.7%ほどの影響」があったとされています。現在の日本のGDPは「540兆円」ですが、その3%とすると「16兆円」です。この「16兆円」という規模はすごいのかどうか、よく分からないでしょうか。例えば、現在の国家予算は「90兆円」です。

他の例えでは、一人1台以上は保有しているだろう高い普及率の携帯電話、これを提供するNTTドコモの年間売上が「4兆円」です。

自動車は単価が高いため普及率の点では携帯電話よりずっと劣りますが、金額では自動車産業のほうがはるかに高く、GDPの一部を担っているとして数字に表れています。

なお、3%という割合については身近な内容で表現すると、例えばあなたの1か月の生活費が20万円だとします。このうち6,000円を必ず自動車関連の費用として使っている、これと同じことです。少しはイメージできたでしょうか。

製品の構造から読み解く経済への影響度

自動車が経済に与える影響の考え方として、1台の新車が作られてあなたがそれを買うまでの過程を考えてみましょう。

自動車は「ボディーの鉄板」「ライトの電球」「バンパーのゴム」「タイヤのゴム」「ステレオやオーディオなどの機器」「窓ガラス」実に多岐多様な部品で構成されています。

それぞれの部品の製造工場が存在し、パーツを組み立てる工場もそれぞれ存在し、さらに1台の車に組み立てる工場もあり、完成した自動車を製品として流通させるための会社があり、消費者に向けて販売する会社もあり・・・などなど。

1台の新車の製造過程と販売には、非常に多くの企業と人々がかかわっています。

これは、新車がたくさん売れればそれぞれの会社の利益が出ることになり、これら自動車産業にかかわっているすべての人々のお給料増えることを意味します。経済効果とのつながりが見えてきたでしょうか?

携帯電話もさまざまな部品で構成されている製品ではありますが、構造や大きさ、かかわる会社や人の数、そして経済効果となると、新車とは比較にならないのです。

自動車の販売台数が国の盛衰を表す指標

自動車という製品が、これほどまでにたくさんの人々の生活を支え影響を与えている、と分かると「新車の販売台数」がその国の盛衰を表すという理論の意味が分かってきたと思います。

新車販売台数が減少するということは、車の製造や販売にかかわっているたくさんの人々のお給料が減ることを意味します。

彼らのお給料が減れば「GDPに対しても多大な影響を与えること」お分かりいただけますよね。

同じ車でも「中古車販売台数」は指標として別物

なお、同じ車として「中古車販売台数」なども参考にされることがありますが、新車と中古車では、影響力には天と地ほどの違いがあります。

というのは、中古品は完成車だからです。中古車の販売までの過程で修理や部品の交換などが多少あるとしても、製造と販売にかかわる人数として考えると、新車に比べて圧倒的に少なく、限定的でもあります。

ですから、経済への影響度も新車の販売台数と比較すると限定的と考えることができるでしょう。

このため「中古車販売台数」は、投資戦略を考えるための経済指標としてはあまり重要視されません。

中古車統計は、別の視点で分析するためのもの

ではなぜ、中古車に関する統計が発表されるのでしょう?それは、「税金のため」です。

中古車を所有する際に発生する「登録者の数×税金」の金額が分かることで、国の税収の全体像が把握できるようになるのです。

新車販売台数の指標から分かる景気動向

新車販売台数が、実際の景気に先行して数字が増加傾向だとすると、その国の景気がよくなってきていることを示します。減っているときには、景気が下がってきていることを意味します。

この指標をファンダメンタルズ分析に活用するとして、極端な話をすると、
「自動車の販売台数が増えているときは買い」「自動車の販売台数が減っているときには売り」というような戦略でもよいわけなのです。

例外の状況もあるので要注意

ただし例えば、日本で起こった東日本震災のような大震災、アメリカで毎年夏から秋にかけて起こるハリケーン被害、など大規模な自然災害のニュースが入ったときには要注意です。

災害に巻き込まれて車が失われたり故障したりすると、直後に自動車の新規需要が増えることは多々あります。

純粋に景気の動向が理由なのか、それとも必要に迫られての増減なのか、理由をきちんと知ることも大変重要で、数字だけで単純に判断するべきではないケースもあります。

以前、アメリカの大手自動車メーカー「フォード」の社長が、「国家の状態がよいときはフォードの業績もよく、悪いときはフォードも悪くなる」との発言をして、物議を醸したことがありました。

世界的大企業のトップでさえも、いつも必ず多角的な視野の発言ができるとは限らない例だと思います。

耐久消費財の普及状況に着目する

自動車は、消費財の中でも「耐久消費財」に分類されます。

先進国ではすでにあらかた普及してしまっていることから、需要といえば買い替えが大半で、数字の伸び率もさほどではありません。

しかし例えば、中国は近年、自動車の普及が急速に進んだ国で、伸び率は日本やアメリカの比ではありません。

私達は車があって当たり前の時代に育っています。

しかし、この一昔前、自動車がこれほど普及する前の自動車とは、個人がいつどこへでも好きなように移動ができる保証が得られることを意味しておりました。

自動車は「豊かな生活を得られるための象徴」のような存在だったのです。自動車の保有が増えるということは人々の生活が豊かになり、経済が活性化することも意味します。

中国では、ちょうどこれと同じことが起こっています。中国の経済成長の伸び方には世界中の投資家が注目していますが、いかに巨大な市場な市場になっているかは、自動車産業だけを見ても想像できると思います。

自動車の普及が一巡した後に控える、大きな問題

しかしこの先、新規需要も一巡した中国は、普及率の拡大が自動車産業の供給過剰を生み出し、結果として中国国内の自動車メーカーや関連企業の統廃合が起こることが予想されます。

現在は6パーセント台の成長率ですが、近い将来は減速するであろう、ということは比較的簡単に予想できるでしょう。

中国に限らず、途上国から先進国に変わろうとする国においては、経済成長の過程で、車だけでなく扇風機や洗濯機などの耐久消費財も爆発的な勢いで普及します。売れ行きも、ものすごいことになります。

そしてこのときはよいのですが、その後に控えている状況が、現在の中国をも悩ませている「耐久消費財」の「生産過剰問題」です。

それまで一般家庭になかった、テレビ、洗濯機、自動車、そしてスマホなどの耐久消費財の普及が一巡すると、あとはそれらが壊れるか、またはもっと魅力的な商品が出るまでは購入しないと思います。需要は劇的に減ることになります。

新しい別の需要が開拓される例も

普及が一巡したヨーロッパや中国では、2030年を目途にガソリン車を廃止して、電気自動車しか一般道を走れないようにするという決定を行いました。

ということはつまり、現在利用しているガソリン車はもう使えなくなり、必然的に電気自動車に買い替えなければならない需要が発生しますよね。

これは自動車産業が盛り上がっていくことを意味します。

日本ではまだ、このようなガソリン車と電気自動車に関する政策は発表されていませんが、近い将来はアメリカに追随する形になるでしょう。この件に関しては、アメリカの動向にも注目したいところです。

(その後、2050年までに世界で販売する日本車を全て電気自動車にするという長期目標を経済産業省が発表しました。これには「遅すぎる」という意見が大半です。)

新しい需要があることを知って分析に活用する

新車販売台数や登録台数を今後、どう指標としてファンダメンタルズ分析に活用するかですが、電気自動車の普及状況が分かる指標としても有効になるでしょう。

新規車販売台数の数字の重要度は、今後さらに増してくることと思います。

過去の事例。地上デジタル放送対応のテレビ需要

日本全国のテレビ放送の電波が、アナログ放送から地上デジタル放送に一斉に切り替わったのは2011年7月のことです。このときも、「新しいテレビを買わなければ、テレビが見られなくなる」事態になり、大規模な買い替えの需要が発生する状況になりました。

消費者に対して半ば強制的に新しい購入を促すこの状況。この頃、低迷する家電メーカー業界の救済の意味合いもあったと言われています。

しかし実際にはこの思惑どおりにはいかず、メーカーのほとんどがテレビ事業から撤退してしまいました。会社自体が消えてなくなってしまったのです。

先行指標を参考にするとはいっても、政策が決まっただけのときに、先読みしすぎてトレードするのはよくないという例にもなるでしょう。

地デジ切り替えによって家電メーカー業界の業績が上がり、それとともに株価が上昇することを予想するアナリストが多かったのですが、実際にはさほどそうならず、爆発的な経済効果があったとも言えなかったと思います。

日本の電気自動車普及政策はあるか?

この先の日本において、電気自動車を普及させる理由がもし、現在の不正だらけの自動車業界に国が補助をして助ける、なんてことになれば反対論も多数出てくるとは思いますが、普及に関して言えば「いつかはそうなる」という流れになるでしょう。

いずれにしても自動車産業はこの先、さらに注目するべき業界となることだけは明確です。

他国の事例や過去の例も参考にしながら、「新車販売台数や登録台数」は今後、非常に重要な指標としぜひ注目していきましょう。