「ISM製造業指数」は、アメリカ供給管理協会「Institute for Supply Management: ISM」が発表する製造業の景況感指数です。

この指数は、アメリカの景況感について非常に細かい点まで分析された結果で、景気の動向を知る指標として非常に重要です。

実際に将来に反映する結果となっていることも多く、全米はもちろん全世界から注目を集めている指標になります。

しかし、指標発表速報として出される、
「結果:58.1 予想: 59.5 前回: 60.2」などという数字だけでは、本当はトレードの参考にはたいしてならないこと、ご存知でしょうか。

今回は「ISM製造業指数」の本当の見方、正しい分析方法について解説してみたいと思います。

ISM製造業指数とは何を表す数字なのか

ISM製造業指数は、全米の各企業の買い付け担当役員訳400人に対して行ったアンケート調査の結果で、別名で「PMI」とも呼ばれています。

なお、日本語に訳したものは「購買担当者購買指数」と呼ばれています。

速報の数値しか見たことがない、という方が多いかもしれませんが、速報に出る1つだけの数値は全体指数であって、実際のアンケート項目は以下のようになっており、かなり詳しく分かることになっています。

  • 新規受注
  • 生産
  • 雇用
  • 賃金
  • 入荷遅延比率
  • 在庫
  • 仕入価格
  • 受注残
  • 輸入
  • 輸出

結果の読み方としていくつか例を挙げてみましょう。

例えば「新規受注が増えているのに賃金や雇用が増えない」となれば、この先賃金や雇用の指数が上昇することになるだろうと予想できます。

また例えば「輸入の割合が大きく、輸出が減少していれば」国内の景気は順調だが海外の景気が下向きなのだ、と予想することができ、故に「国内の景気が海外経済に引っ張られて下がる可能性がある」などと予想することもできるでしょう。

ISM製造業指数が発表された時点で、そのときの景気動向とを見比べることで、今後の景気動向を知ることができるのです。

日本のアナリストの多くは、ISM製造業指数の全体指数が最高値になった、だから景気が上がった、はたまた最低値を更新した、だから景気が下がった、などと述べるだけにとどまっています。

本来はそういう見方をするものではなく「各項目の詳細な上下動を見て比べる」ことによって、景気拡大は現状がピークなのか、それともまだ拡大の余地があるのか、など、今後のアメリカ経済の動向を見極めます。

例えば、もしピーク時の結果なのであれば新規受注が減り、雇用や賃金が上昇しているはずです。新規受注が増加しているとすると、まだピークではないことが分かります。これが正しい分析方法です。

ISM製造業指数で注意したいこと

なおこのISM製造業指数は、あくまでも「アンケート調査結果」であるということです。ですから、おおまかなものであることはぜひ頭の片隅に置いて利用しましょう。

例えば「新規受注」は、「増えているか、減っているか」との質問への答えであって、具体的な数字が提示されるわけではありません。

指数の数値は、先月と比べて変わらなければ50で、50は平均値です。「良い、普通、悪い」の選択肢に置き換えるとするなら、50は「普通」といったところでしょう。

また増えた場合の感覚は企業によって異なり、感覚的な評価がされている事も知っておくべきでしょう。「新規受注の増加は10%だった」という数字を回答するとき、ある企業では「すごく増えた」と回答するかもしれませんし「わずかに増えた」と回答する企業もあるかもしれません。

企業の業種や事業内容、普段の業績などによっても答えの性質は異なるのです。

ですからISM製造業指数の結果発表速報の「結果:58.1予想:59.5前回:60.2」という数値だけでは分析はできません。本来は詳細項目の内訳全部が必要で、先に説明したような因果関係を考えながら、「今回はこの数字になった」要因と先行きを分析していくことが重要なのです。

「現状の」結果もちろん重要ですが、本来私たちがほしいのはこれだけではなく、景気の「先行きの」判断です。今後はぜひご自分で先行きを分析できるようになりましょう。

製造業の重要性

ISM製造業指数は、月2回発表されます。この違いは製造業とサービス業の2種類があるためで、毎月1日に製造業、第3営業日に非製造業(=サービス業)の指数が発表されます。2回に分割されて発表されているのは、業態が全く違うことが理由です。

「製造業」と一言でいっても、例えば原料の加工から始まるところもありますし、加工された原料から部品を作るところもありますし、部品を集めて組み立てるところもあります。

また化学メーカーなどでは、原料である石油などを加工して製品別に材料を分け、材料を使って製品を作るという作業をしますし、部品を集めて製造するメーカーでは、たくさんの下請けの取引先からパーツを調達します。

自動車販売台数の解説記事」でも述べましたが、自動車ひとつを例にとっても本当にありとあらゆる「製造業」があり、たいへんすそ野の広い産業なのです。

同時に、この産業にかかわっている人が非常に多いことにもなります。このことからもISM製造業景況指数は、全米を網羅するアンケート結果であることになるのです。

それに比べると「サービス業」は、製品を仕入れて販売するのみのケースがほとんどです。完成品を店舗で受け取り、それを売るだけ。すそ野は非常に狭い産業と言えます。経済への影響度も製造業と比べたら低いことになります。

「製造業」の指数の方が「非製造業」よりも重要

実際の数字を見ていると、感覚としては、製造業もサービス業もそれほど大きな違いはないように見えます。各項目とも製造業が下がればサービス業も下がりますし、その逆も正しい、と言えそうです。

しかし指標としてより重要なのはどちらか?と言えば「非製造業」よりも「製造業」です。理由は先に述べたとおり、かかわっている人数が多いことからくる経済への影響度です。

サービス業の指数からでは詳しい分析はできないので、この数値を元にした見通しの結果も、あまり当たらないところがあります。

アメリカのアナリストも非製造業のISMをどう扱えばよいのかよく分からないという方がほとんどで、分からないから参考にしない、という潔いアナリストまでいるほどです。

重要なことなので繰り返しになりますが最後にまとめると、ISM製造業指数の指数で一番重要なのは「製造業の項目別の数字」です。

アメリカ経済における製造業といえば、国外や途上国に任せてしまっていて、自国内にはあまりないようにも見えるのですが、この製造業の景況感指数はまだまだ非常に重要な存在です。

確度の高いファンダメンタルズ分析をするためにも、よく勉強しておきたい指標のひとつです。