「日銀短観」とは、日本銀行が4半期ごとに発表する、日本経済における景況感を表した指数です。正式名称は「企業短期経済観測調査」ですが、通称の「日銀短観」方が認知度としては高いかもしれませんね。

この経済指標は、日本全国の企業約1万社に対して4半期ごとに行われる大規模なアンケート調査の結果です。

なお、アメリカにも企業の景況感を示す経済指標があり「ISM指数」と呼ばれています。この指標について詳しくは「別の記事で紹介」していますのでぜひご覧ください。

日銀短観はISM指数と同じ性質の指標であるため、この記事ではところどころ比較しながら説明をしていきたいと思います。

日銀短観に勝るものはないと断言できるほどの指標

日本の日銀短観は、日本全国の企業「約1万社」を対象に行われる大規模かつ詳細なアンケート調査です。ISM指数の元となるアンケート調査対象は「アメリカの経営者約400人」ですから、これだけでも結果の正確度の違いが分かると思います。

調査は大手企業と中小企業、製造業と非製造業などに分けて行われ、項目も細かく多岐に渡っています。

「景気の見通し」「現状」「仕入れ価格」「販売価格」「販売数」「売上」「雇用」「賃金」「資金繰り」「金融機関の貸し出し状況」などなど。

このため景況感指数としての正確性は、ISM指数に比べると抜群に高いです。ちなみにISM指数は調査項目数が非常に少ないです。

「日銀短観」は、特に企業サイドからの日本の景況感を知るための指標としては、他の指標がすべてかすんでしまうほどに信頼性が高く、「最も優れている」とさえ言える指標です。

日銀短観の発表頻度は4半期に1回

ISM指数には「ISM製造業指数」「ISM非製造業指数」の2種類があり、1か月に1回ずつ発表されます。アンケート調査も毎月あります。

これに対して日銀短観のアンケート調査は3か月に1回で、結果の発表も3か月に1回です。1回で詳細な調査結果がすべて発表されます。

ISM指数より頻度が少ないことにはなりますが、調査母数が1万社以上であることや項目の詳細さを考えれば、3か月に1度という頻度も十分すぎるのではないでしょうか。

また、ISM指数は大企業や中小企業の区別をしない調査ですが、日銀短観は企業の規模を大企業、中堅企業、中小企業と分類されており、業種の分類もたいへん細かくなっています。

ざっくりと大雑把だけれど速いアメリカの調査、時間をかけて幅広く綿密に行う日本の調査。経済指標にもお国柄が表れているようで、興味深いですね。

日銀短観はより詳細で正確であることから、分析方法としてもさまざまなバリエーションが広がり、さまざまな分析結果を期待できます。

なおデータは多ければ多いほど予測の確度も高まるものではありますが、情報が多すぎると一つの結論を導き出すのは難しい側面もあることは忘れずにおきましょう。

日銀短観の指数の見方

日銀短観は、「ディフュージョンインデックス(DI)」という景気動向指数で表されます。

DIとは、指標全体のうち 改善している指標の割合を算出して、景気の各経済部門への波及度を知るための指数です。

ISM指標の平均値は「50」ですが、日銀短観の平均は「0」で、数値の表示のされ方が違うため見方も異なります。日銀短観では、景況感が良いときの数値は0以上で、上は「30~40」です。

景況感が悪いときの数値は0以下のマイナスで、下は過去のデータから見ると「-40~-60」といったところです。

こういったことを覚えておくと今後、数値の意味も理解しやすくなるでしょう。

日銀短観を分析に利用するときの注意点

日銀短観をファンダメンタルズ分析に利用するときの注意点は、ISM指数のときとほぼ同じです。日銀短観も「あくまでもアンケート調査結果である」ことを認識して利用しましょう。

日銀短観のアンケートは、各企業の業績の具体的な数字を聞き取り調査したものではなく、体感的な感覚を答えてもらったものです。「景気がいいかどうか」という感覚は回答する個人によってあいまいなものですよね。

10%の増加が「多い、良い」と感じる企業もあれば「少ない、悪い」と感じる企業もあるでしょう。

このほかにもさまざまな分析方法を付け加えて出された数字が指標として発表されています。

このため、結果の数値が上限である30~40を超えていたとしても、いつも必ず「好景気」と判断できるわけではないことも、ぜひ覚えておいてください。

人間の感情を含んだ結果の数値である

人間は、目の前に起こった事象を意識し、見たり起こったりしたことに影響されて行動するものです。

例えば景気のいい話を聞いたあとにアンケートに回答すると「良い」方向に回答する傾向があり、景気が悪い話を聞いた後に回答すると「悪い」と回答してしまう傾向があるのです。

このため、世の中が好景気に沸いているとき出た日銀短観は、もしかしたら現実よりも良い結果が出ているかもしれません。

ですから、大企業の製造業の景況感が「過去最高」になったからといって、手放しで喜んだり安心したりしてよいわけではなく、先に述べた人間の行動の傾向のことを思い出して「実はすでに過去にもあった規模までしか上がっていないのかもしれない」という、一歩引いた見方も必要なのです。

いくら大規模で詳しいアンケート調査結果であるとはいっても、過去の好景気の規模と現在の好景気の規模が数字的に一致することはありません。

数字が同じだから規模も同じであると機械的に判断するのではなく「世間の雰囲気に流されやすい指標である」ということは認識する必要があると思います。

感情の数字であって景気の実態を表すものではない

日銀短観やPMI指数だけでなく、世界には数多くの景況感指数があります。これらは景況「感」ですから、この指数は人間の感情と感覚を表した数字なのです。

これらの経済指標をファンダメンタルズ分析に利用するときには、必ず正確な景気の実態を表現しているわけではないことを、常に念頭に置きたいものです。

日銀短観はトレンドを見るためのもの

日銀短観や数々の景況感指数の使い方としては、全体の流れを見極める、いわばチャートのトレンドを眺めるような気持ちで見ることが大事だと思います。

例えば、平均線を使ってトレンドを見極めるようなことが必要なのです。一般的に普及しているトレンドラインでは変化には感応しませんので、トレンドライン使うことは推奨できません。

FXにファンダメンタルズ分析を活用するとき、まず最も重要な指標は「GDP」なのですが、ファンダメンタルズのプロには「先行きに関して分析するのなら、日銀短観の方が重要」と断言する方が多いのも事実です。

なぜならGDPの数字は現状を表すのみであって、将来どうなるかは予測できませんが、日銀短観には「先行き」や「変化幅」のアンケート結果も項目にあります。将来の分析にも活用できるのです。

ただ、GDPと日銀短観に共通する注意点もあります。前の四半期4回、悪い数字が続いたあとは、次の結果の数字は上ぶれする傾向があります。

また、良い期間が4回続いたあとは、次の結果は悪い数字になる傾向があります。これらも先の話と同様に、人間の感情が影響した結果になっていると言えるでしょう。