「マネーサプライ」とは、訳すと「お金の供給量」で、国内の経済に出回っているお金の残高のことです。
お金の分類には、現金、預金、準通貨(定期預金 、外貨預金など)、投資信託や国債、etc. 他にもまだまだたくさんあります。
この組み合わせを分類として表して指標として発表されるものには「M1」~「M3」、イギリスでは「M0」と「M4」もありますが、これらの定義をすべて理解できるまでには時間がかかるでしょう。
マネーサプライは仮想通貨の流通のようなもの?
例えば、日本の借金は1100兆円と言われていますが、実際にこの金額の現金が流通しているわけではありません。また例えばあなたのお金も、預金通帳にあるだけですよね。
光熱費の支払いもカード利用代金支払いも自動引き落とし、数字だけでやり取りされていると思います。まるで今流行の仮想通貨のようです。
ビットコインなどの仮想通貨だけでなく日本円も、実質仮想通貨と同じにバーチャルで流通しています。現金の量ではなく流通量が「お金の供給量」、マネーサプライであることをぜひ覚えておきましょう。
なお、お金の需給は通貨の価値決定の要因に大きく影響していると言われています。お金の供給が増えればそれ自体の価値は下がり、供給が減ると価値は上昇するのが基本です。
このことから、供給量の増減によって通貨の価値も変動するとされています。
マネーサプライを利用するソロスチャート
世界的な投機家として知られるジョージ・ソロス氏が開発した「ソロスチャート」は、各国の通貨の流通量から、世界各国の通貨の価値を導き出すものです。
考え方としては、お金の供給が一番多い国の通貨は一番安い、二番目に供給が多い国の通貨は二番・・・というふう順位付けを行い、その相関係数によって通貨の価値基準を決定するというものです。
例えばリーマンショック後、アメリカ、ユーロ、日本では金融緩和が行われて、通貨の供給量が増やされました。
その供給量によって通貨の価値を決めることができるというのがこのソロスチャートです。このときの日本円は、「異次元緩和」と言われたように価値が下落しました。円安になったのです。
通貨の発行を増やしても円の価値が下がる?
「通貨の発行を増やしても円の価値が下がる」とは、どういうことか考えてみましょう。例えば1万円札の供給を100枚増やしたとき、日本国内での価値は100枚で「100万円」ですが、為替を絡めて考えると価値は異なります。
円の価値が1ドル100円から200円の「円安」になった場合は、円の価値が半分になるということですから、1万円札100枚分の価値は「50万円」にしかなりません。
アベノミクススタート時には80円だったドル円相場は、ピークで120円の円安になり、数字が上がったことから良い評価がされたと思います。しかし実際の円の価値は上記のとおり下がっていることに、注意をしなければなりません。
例えばアベノミクススタート時に、円の発行量を2倍にして200枚の1万円札を作ったとしても、対ドルの価値として考えると3分の1下がったことになり、200万円も133万円分程度の価値にしかなりません。
このように、金額ベースで発行量を考えると、日本の金融緩和は大した効果がなかったことになります。単純計算すると、1万円札200枚を対ドルでも200万円の価値にするためには、円の発行量をさらに3倍に増やさなければならなかったのです。
ソロスチャートは金融緩和に焦点を当てた分析法
最近の情勢では、アメリカが金融緩和をやめて、反対に金融引き締めを行っています。
通貨の発行量を抑えているのです。ユーロも来年には引き締めに入るとの観測が流れています。
需給に当てはめて考えるとこのことは、「ドル高ユーロ高になって、結果円安になる」と判断できると思いますが、実際には通貨の価値決定の最優先事項は、国家のGDP、つまり稼ぐ力が基本路線です。
ソロスチャートは、金融緩和にフォーカスした分析法として注目され、分析の流れで通貨の需給にもフォーカスが当てられたツールであったのですが、最近では通貨の価値の決定にはGDPで判断する方法に移行しています。
マネーサプライで分析する方法は傍流?
FXトレードにおいてもさまざまなテクニカルツールが発明されて注目されつつも、結局は昔ながらのローソク足が最もよい、とされるように、ファンダメンタルズ分析においてもさまざまなツールや指標が特別注目を集めたり流行したりすることがあります。
ソロスチャートも、この一つだと言えるのではないでしょうか。現在の本流は、国がいくら稼げるかのGDPとされていて、通貨の供給量や需要で価値を判断する方法は傍流であると言われています。
これは原油や「金の価格の話題」の記事で説明したとおり、需給がはっきりしないからドルの上下によって判断することにしたのと同じようなことだと思います。
「需給がすべてに勝る」とは株式市場に相当する格言であって、為替市場では当てはまらないことになるでしょう。