「GDP」とは国民総生産のことです。「生産」とは何かを生み出すことですが、例えば一番手っ取り早いのは、自分の時間を提供して労働し、その対価をお給料で得ることがあると思います。

この「生産」の意味については、正しく理解されていないように感じます。例えば安倍首相が「生産性を向上させよう」と言っていますが、この場合の生産性とは、自分の時間を労働力として提供して対価を得ることとは違うのです。

安倍首相の言葉には「効率」という言葉が抜けています。首相の言葉の本来の意味は「効率的に働いて、時短させて成果を上げよう」という意味なのです。労働時間が削減されれば余暇に回す時間がたくさんできます。

つまり、時間をかけても生産性が上がらない仕事はできるだけ廃止して、余った分をレジャーに回そうということが「プレミアムフライデー」なのです。

日銀の副総裁は、日本人の経済厚生は年率で4パーセント程度上昇をしており、先進国の中では一番高い伸び率であるから、今回の景気回復こそ本物であろうと言っています。

ま、彼らの仕事は日本経済を良くすることですから、個人的には彼らの言い分は9割引いて聞かないとダメだと思います。

GDPの中身とは

日本が得意とする「加工貿易」は、原材料を輸入し、作った製品を輸出することだと、義務教育では習ったと思います。

このとき、原材料の購入代金は販売元に支払い、自分たちは生産に寄与して販売するだけです。製品を販売した後に手元に残るのは、材料費を引いた販売価格です。これがGDPになります。

生産とはお金を稼ぐことですが、「生産」の言葉の中に原材料費は含まれていません。つまりGDPとは儲けの部分の純粋な利益のことを言います。

例えば企業経営では「売上は〇円、原価や経費を差し引いた純利益が〇円」と報告すると思います。この純利益がGDPです。

また、お給料をもらう会社員の場合は、あなたの時間を雇用主に差し出して対価としてお給料をもらうのですが、時間は無料なわけですから対価のお給料は全額GDPになります。

GDPを増やす方法

GDPの構成要因の中で一番大きい6割の比率にあたるものは個人、お給料です。安倍首相が日本のGDPを600兆円にしたいのなら、企業に手厚い保護をするよりも個人が安心してお金を稼ぎ出せる、お給料が増えるような政策を行えばよいのです。

しかし実際には、企業に恩恵を与える法人税の減税や、雇用の流動化、法人特典にばかり重点を置いて企業の利益を増やせるようにしました。

政府の思惑通りにはいかず、暴走する日本企業

結果、企業の利益が増えたのは当然なのですが、企業は、安倍政権の目的である従業員のお給料として還元するのではなく、自社内部に貯め込むことで業績を上げたり、自社株買いに使ったりしてしまいました。

また、企業の経費の中で一番かかるのは、人件費です。

低賃金の非正規労働者を増やして企業が雇用の責任を負わないようにしたり、法人税を減税したりすれば、会社の利益は上がって当然でしょう。

このような背景が理由で、日経平均株価はバブル期以前の最高値を更新しているのです。正しい景気の上がりかたではありませんよね。

この状況に激怒をしているのが、麻生副総理兼財務大臣、こんなことなら法人税減税なんてするんじゃなかった、と会見で本音を言っています。

自分の会社だけが儲かればよいと考えるモラルの低い経営者が多い日本の実態は、嘆かわしいことです。

このような経営者は、製品の偽造や不正なども平気で行い、その真実が次々と暴かれているのが昨今の状況です。明るみに出ているのはまだまだ氷山の一角であると思います。

日本経済に欠けているのは労働再分配率の上昇

1987年にノーベル経済学賞を受賞したロバート・ソロー氏の、世界的に有名な経済理論から考えると、GDPを成長させるため必要な項目のうち、今の日本経済に欠けているのは、「労働再分配率」です。これが上昇しないと経済成長もしません。

参考までにノーベル賞は、発明から何年も経過した後に付与されるものです。ソロー氏の論文の理論も、数十年かけて世の中で役に立ったことが評価されて受賞したのです。

労働分配率とは要するにお給料のことであって、企業が儲けた金額に対して、そのうち何パーセントを労働者に付与するか、ということです。

日本の労働分配率は平均いくらぐらいなのかは知りませんが、先に書いたとおり日本企業は儲けたお金を労働者に分配せずに、企業が独占しているのですから、労働分配率は悪いままだと思います。

冒頭で書いたプレミアムフライデーも、いくら経済厚生の伸び率が先進国でナンバー1だとしても、お給料が増えない中で余暇を楽しむ余裕などないわけですから、不発に終わってしまうのは当然でしょう。

一時期は、プレミアムフライデーでよい効果が出ているとの報道がされていましたが、よい面しか報道しないのは日本のマスコミの特徴です。

仮にプレミアムフライデーがブームだとしても明らかにそれは一過性のものであって、肝心の労働分配率を上昇させなければ、本物の経済の発展や景気回復などありえません。

そのうえ、2019年には消費税増税が控えています。労働者のお給料を増える見込みはない中、どこの消費者に余暇に回すお金があるのでしょうか。

将来がある若い人がいる国でなら、お金が使われるでしょうけれど、日本は少子高齢化の国です。人口の大部分が高齢者を占める日本では、お金はさほど使われないのです。

プレミアムフライデーと浮き立っている人たちも、先行きをみれば楽観的ではいられません。

消費増税という関門をなくさない限り、企業は労働分配を増やそうとしないでしょうし、労働者は将来に備えて一生懸命貯蓄だけして消費をしない構図も、変わりません。

アメリカでは、効果を出せる人が担当に選任されている

この労働分配率を増やすことを成長会計の方程式といいます。

労働分配率を考えられていない日本ですが、アメリカの場合は、前FRB議長のイエレン氏の後任として、アメリカ経済を効率よく成長させるための人材が、しっかりと選任されています。

イエレン氏は雇用の増大に尽力をし、結果は大成功でしたが、賃金の上昇には課題を残しました。

アメリカの中央銀行総裁の人事は、いつも理にかなっていると個人的に思います。次期FRB議長のパウエル氏は、雇用を安定させ、企業業績も安定させ、この先アメリカ経済をどう効率的に、生産的に成長させるかのプロです。

パウエル氏より前の人事でも、例えばリーマンショックの真っ最中に指名された「へリコプター・ベン」のバーナンキ氏は金融緩和の専門家であり、危機対応の専門家でしたし、そのあとを受け継いだイエレン氏は、フォード社の雇用を研究した「フィリップス曲線」の専門家で、経済と雇用の専門家でした。

日本の人選はどうなのか

日本の黒田日銀総裁は、今の日本政府のやっている経済政策が正しいことを前提に選ばれた人ですので、日本政府の意向には逆らえない方です。

現状が間違っていてもこの現状が正しい、と思い込んでいる方なので、何をやっても納得できる結果など、出るわけがないのです。

アベノミクスや異次元緩和は、一時的な対処療法としては正しかったのですが根治治療になるものではないですから。

ご本人はリーマンショックや震災直後のときよりも景気がよくなったと強弁されていますが、異次元緩和でたくさんお金を使った割には、期待したほどの成果は出ていないと思います。次回の続投は危ういのではないでしょうか。

GDPの構成の「個人消費」以外の残り4割は

GDPを増額するためには個人消費を増やせばよく、その結果景気も良くなって、円安になるということは、お分かりいただけたと思います。

さて次に、この6割の個人消費以外のGDPの構成要因は何であるか、気になりませんか。

GDPの構成要因は、経済学の「政府、家計、企業」の3項目とも重なる「個人消費、企業利益、政府支出」の3項目です。

個人消費以外の残り4割は、企業利益、政府支出になりますね。

前の章では、これらの項目に属する経済指標について、たくさん解説を行いました。

これらの経済指標は、先行、一致、遅行のどの分野に属しているのか、そしてどの経済指標が他のどれとどのように関連し合っているのか、そしてその関連性から今後経済にどのような影響を与えるかを知ることが、ファンダメンタルズ分析ではとても重要です。

国家予算を増やしても国の成長率が伸びない日本

毎年、年末になると財務省と各省庁が予算交渉を行い、議論をします。これを叩き台に、国会で予算案が審議されます。東日本大震災の頃には60兆円を切ることもありましたが、現在は90兆円まで膨らんでいます。

5~6年前と比べると予算は150パーセントも増えています。通常、予算の伸びは、国の経済成長と同じになるものなのですが、日本はそうではありません。つまりは借金の利払いばかりをしているのです。

アベノミクスがスタートをしたのは2013年で、異次元緩和によって国債の買い取りを開始したのが4月です。

長期国債の主流は10年ですから、4月時点で未だに10年前以上に発行した国債が残っていて利払いが必要です。

しかし、新規発行国債の10年物はゼロ金利で、短期国債はマイナスなのですから、償還を迎えても利払いなど起こりません。

利払いの負担は減っていて、利用できる予算も増えているのに、全く黒字化ができないという状況は、何か運営に問題があるからだと思います。

国債が償還されても、また新たな国債に乗り換えればいいだけなのですから、これを2023年まで続ければ実質の利払いはゼロになります。それにもかかわらず支出ばかり増えてして、増税まで必要な状況であるということは、政府には経営能力とセンスがないのでしょう。

話がそれましたが、国家予算が例えば5兆円増えたら、その5兆円はGDPにダイレクトに跳ね返るのです。

予算ベースでは5パーセント弱の増ですが、GDPが今年540兆円であれば、来年は545兆円になり、GDPの伸び率というのは0.9パーセントいうことになります。これはあくまでも他の数字である、家計、企業、投資、貿易の数字が変わらなければの話です。

日本全体の去年の成長率が2パーセントだとすれば、そのうち0.9パーセントは政府の支出によるものです。残りの1.1パーセントは物価上昇で、これは円安や原油高によってもたらされたものです。

2013年からの成長率1パーセントは政府が寄与した成長であり、ほかは円安による物価高のみで、日本は実質成長していません。

このようにファンダメンタルズ分析をしていくと、アベノミクスの効果など全く出ていないことが分かります。国家予算を増やすことで国の成長は持続することになります。国家予算が縮小すると、国の成長は減速するため、異次元緩和はやめたくてもやめられないのです。

現在の見せかけだけの景気の良さを持続するためには、予算の拡大は必須なのです。プライマリーバランスの均衡を延長したのは、黒字化の目途が立たないからで、単なる目くらましです。こういうことも私がよく「アベノミクスは蜃気楼」と言う理由です。

他の国なら人口が増えて国が成長しているところ、それを望めない日本では、無理やり予算を拡大することがGDPを上昇させる方策になっています。

GDP「企業利益、政府支出」の他に「貿易と投資」

また話が脱線してしまいましたが、GDPの構成要因の個人消費以外の残り4割、「企業利益、政府支出」の他に「貿易と投資」という項目もありますので、そのお話をしたいと思います。

日本だけでなく、海外からの直接投資が歓迎されているのは、その経済効果が非常に大きいためです。投資とは貿易と同じ構図で、貿易の拡大と経済の発展には累積効果があります。

自由貿易の効果は、日本の江戸幕府が崩壊して明治維新で一気に時代が変わったときの例が分かりやすいと思います。劇的な効果を求めて、世界では自由貿易を促進するのです。

異国の商品が入ってくる貿易の効果には、文化さえ変える可能性があります。例えばスマホが輸入されたときには携帯電話の買い替え需要が起こりました。スマホの普及は、人々の生活を一変させましたよね。

投資にはリスクが伴いますので、リターンが大きくなければ誰もやりません。逆にリターンが大きい投資は、多少リスクがあってもやる人がいるでしょう。

リスクの高い国の企業には誰も投資しないはずで、日本の場合は例えば年間10パーセント以上のリターンがなければ外国籍の企業は投資をしないはずです。ただし投資が成功した場合、2倍や3倍のリターンがありますから、効果が大きいと言えるのです。

企業の成長も、その利益を出すための投資をいくらしたかによって、だいたい決まってきます。

このように貿易と投資は、経済を拡大発展させるために重要なことです。国が成長するために貿易の振興と投資の促進をすることは、必要不可欠なものなのです。

世界経済を知るうえでのGDPの重要性

ドルは世界の基軸通貨であるということは、小学校か中学校で習ったでしょうか。FXを勉強し始めて初めて、重要度を認識した方も多いかもしれません。またGDPの重要度については、考えてみたことがあるでしょうか。

前章の経済指標のさまざまな解説はすべて、GDPの成長率や総額を予想したり理解したりするためのものです。ドルが通貨の中の基軸通貨、つまり王様だとすると、GDPは経済指標の中の王様であるほど重要なのです。

なぜGDPについて、他の経済指標を参考に分析しなければならないのかというと、GDPは4半期ごと、つまり3か月に一回しか発表されないためです。

相場がどうなっていくのか日々気にしている者にとっては、このペースの頻度はあまりにも遅いのです。そこで、さまざまな経済指標を分析して、GDPがどうなるかを考えるのです。

昨今の市場仮説は、シカゴ学派の効率的市場仮説が主流になっており、市場に流れるさまざまな情報にも織り込まれています。

GDPが1~2か月遅れで発表されても、値段の動きに織り込まれている、というのが日本の一般的な金融専門家の常識だと思いますが、為替相場はGDP次第で動いていますので、効率的市場仮説が当てはまるというのは、基本的に間違いです。

ちなみに株価に関しては、この効率的市場仮説の理論通りだと考えています。

そもそも、日々の経済発表の結果がどの程度、GDPに織り込こまれているかを、テレビやマスコミに出ている専門家は、全く検討していません。

例えば、消費者物価が0.9パーセント上昇した場合、この上昇分はGDPに反映されますが、専門家のうちGDPの解説をしながら消費者物価の話までする人は一人もいない、という現実を見ればわかります。

また国の予算総額にしても、為替の専門家は一切触れようとしません。国家予算の増額分はダイレクトにGDPに跳ね返るという知識がないか、何も考えていないからだと思います。

シカゴ学派の効率的市場仮説が幅を利かせている現在、市場に出回っている情報はすべて値段に織り込まれると考えられており、値段は非常に合理的なもので間違いがない、考えられています。

だからGDPの遅れた情報など必要ない、ともされていて、1~2か月遅れに発表されるGDPの数字をぴたりと当てられる人も、当てようとする人も、いないのです。

為替の値段に最も影響するのがGDP

実際には、値段は合理的ではありませんし、予測できないランダムな動きをすると考えるほうが、非常に合理的な考えと言えると思います。

ただ、為替の値段はGDPにリンクしていないと考える人がほとんどであるため、その結果で値動きがランダムになっているとも考えることができます。

私が何年も為替を勉強してきて感じるのは、GDPほど為替に影響を与えるものはない、ということです。結論を言えば為替相場の動きとは、GDPの値に収斂していくものです。

さまざまな経済指標は、GDPを予測するツールであり、為替の将来の値段を知るために重要なツールです。この経済指標を正しく読み解くことができれば、景気の先行きや、将来の為替の値段も読んでいくことができると信じています。

日々コラムで円高、円高と騒ぐ理由はこれらのツールの分析結果だからであり、この結果は間違っていない確信があります。

私は、2015年のチャイナショックから現在まで、長期見通しを円高から変えたことはありません。現在は、まだ大円高時代の幕開けの段階であると思っています。将来のドル円レートはおそらく、50円にもなるだろうと予測しています。

株価も、GDPの影響を受けている部分がある

市場に流れるさまざまな情報は、実際に値段に織り込まれており、値段は合理的なものになっていると私も信じています。

しかし、日経平均や各国のインデックスなどの代表的な株価指数は、やはり政府の発表する経済指標や統計に影響を受けていますので、合理的とは言えないと思います。

なお株は、個別株とインデックスが同じような動きをすると考えるのは間違いです。

全く別のものであると考えると、株の動きの意味も分かってくると思います。株価には二面性があり、シカゴ学派の効率的市場仮説と、GDPなどの経済指標に左右される部分の2つが介在しているのです。この違いをはっきり認識している人だけが、株式でそこそこの成績を残せることになるでしょう。

もう一つ話を付け加えるとすれば、経済のもっとも大きい単位とは、国家です。ユーロ経済圏の例外もありますが、基本的には国家が最も大きい単位です。

株式は民間企業のものですが、民間企業は必ず国家の庇護で営業活動を行っています。このことから、結局株価も、政府の発表するGDPや各種経済指標の影響下にある、ということもぜひ忘れないでいただきたいと思います。