前回の「値段の基準の話」では、ドル円相場ではどうなったら円安に行き、どうなったら円高になるのかについてお話ししました。

この結論は、「日本の景気が良ければ円安に行き、景気が悪くなったら円高になる」です。

更なる条件としては、「アメリカ>日本であれば円高、日本>アメリカであれば円安」です。

なおこの等号と不等号については、こうなる理由の詳細を理解しようとすると大変であるため、まずは暗記してください。またこの説明には、私のドル円相場の基準値の決め方の秘密も含まれており、その部分についてはお話しできないのです。

人は、質と量が同じなら値段が安い方を選ぶ

さて、みなさんがスーパーで買い物をするとき、商品の値段が安いか高いかの判断は、何でしているでしょうか。

経済学的には、質と量が同じ商品であれば当然「安い方を選ぶのが合理的」という判断になります。

たとえ商品のパッケージがアートのように美しくても、得られる対価はデザインの良し悪しによって決まるのではなく、パッケージの中身によって決まると考えるからです。

実際の消費の現場においては、パッケージの美しさが付加価値となって人気商品となることももちろんありますが、人は基本的に、全く同じ条件であれば安いものを選びます。

また、売るときにはより高く買ってくれるところで売りたいものです。

値段の評価は「相対的」「絶対的」の2種類

他の「同じような商品」と値段を比較して割高、割安を比べることは、「相対的」な評価といいます。ここで少し行動経済学の話をしましょう。

ノーベル経済学賞を受賞したカーネマン氏によると、人間の脳には怠けものの仕組みがあるので、たいていの場合、無意識に比較をして選択を行うのだそうです。

つまり、価格を他の商品と比較したり安い方を選んだりする行動は、無意識の上で相対的な比較をしていることになります。

相対的ではなく「絶対的」に値段を比較するとしたら、脳や意識を覚醒させなければならないのですが、脳にはそれをしないという性質があるそうです。

なおこの相対的な比較による判断には欠点があり、比較した商品の価格に妥当性がない場合や、その価格が高すぎたり安すぎたりした場合は、商品選択の判断も間違うことになります。

比較対象のものの値段がそもそも間違っているため、あなたの選択も必然的に間違い、ということになるのです。

これに対して、絶対的な値段の判断をする場合には、その商品の構成要因の原価を調べ、構成要素の価格を積み上げて商品価格を類推することになります。

スーパーの買い物の商品に絶対的な価格判断をすることはあまりありませんが、株価や為替の高い安いの判断は、基本的にこの相対的か絶対的かの2つの方法によって行います。

原油や金の現物には品質差がある

株や商品の相場の場合は、同じ質量のものを取引所で取引しているので、商品の差は存在せず、同じ銘柄である場合は全員が全く同じものを買うことになります。

ただ、商品相場において原料や素材の現物を受け渡しするときには、価格差を清算することもあります。例えば原油の商品相場では、商品の品質やグレードを指定できませんが、劣悪な品種の場合は、勘定の増減を必ず行うことになります。

「原油」の種類は1つしかないと思って取引している方は多いと思いますが、原油は天然由来の資源物ですから、産油された場所によって品質が異なります。どろどろした原油だけでなく、非常につるつるした原油もあります。

ちなみに原油の品質は、灯油やガソリン、軽油などの白物燃料が多く取れるもの良いとされています。質の悪い原油からは、ほとんど重油しか取れません。金に関してはどの地金を受け取っても価値は変わりません。

しかし、日本の場合、オイルショックが起こった1970年代、特に大手地金商のインゴットに純金割合が低いものがあったときの名残で、三菱マテリアルなどの品質保証の刻印がある金地金(インゴット)に価値があるとされています。

検品をする必要がある手間がかかる商品は、その手数料分だけ商品から割り引かれるのです。

株式の場合は、普通株や優先株、劣後債などの種類がありますが、これらの商品は別々に上場されていますので、受け渡しの際にプレミアムやディスカウントがあることはありません。

株は「絶対価格」為替は「相対価格」

株の発行総数に時価を掛け合わせると、株を発行している会社の時価総額が出ます。この時価総額が高いか安いかを判断するのが「株価」です。

同業の会社の株価を比較して、割安、割高と判断することもありますが、基本的には1社の株価単体で会社の価値を知ることができます。株価の表示は絶対的評価と言えます。

一方で為替とFXは、例えばドル円の場合ドルがあって初めて円の価値、価格が分かります。円単体の価格は存在せず、他国の通貨と比較することで価値が分かる相対的評価なのです。

ドルインデックスや、円インデックスのように、一部には絶対的に通貨の価値を表現しようという試みもあります。

しかしこれらインデックスの構成要因は、ドルに対しての主要通貨レートの売買比率と、ドルに対しての各レートの値段を掛け合わせてパーセンテージ表記をしたものですから、根源的にはやはり相対的な表示ということになり、絶対的な価値にはなり得ません。

また、昨年日本銀行の国会の答弁で出た実行為替レートも、計算式をみるとやはり、根源的に相対的評価になります。つまり株と為替の大きな違いとは、値段の評価基準の違いもそのひとつなのです。

奥が深い、バフェット氏の「バリュー投資法」

株の世界での絶対的な存在に「ウォーレン・バッフェット」という投資家がいます。彼がこれほどまでに成功した投資法は「バリュー投資法」と呼ばれ、世間に広く知られています。

バリュー投資法の要点は、安い株を買って長期間にわたって保有することにあります。

言っていることとしては当たり前なのですが、「では、安い株って何?」「割安な株や値段をどうやって見つけるのか?」というところが、奥が深いのです。

割安、割高の判断をするに辺り、原価や利潤を乗せて価格を割り出すのか、それとも相対的に同業の株と比較検討する事によって適正株価を割り出すのか?

安いもの、特にコスト割れの商品を買い、その商品に需要が出れば必ず将来は採算以上の価格になるのですから、必ず儲かります。

しかし「割安」の基準を知っていなければなりませんし、或いは、コストや採算の分析方法を知っていなければ「割安な株」を買うことはできません。その株や会社に需要があるかも調べなければなりません。

なお、会社が社会的役割を終えて倒産した場合は、コスト割れした価格で買ったとしてもあなたは損をします。ちなみに株式には倒産にも対応した指標があり、会社解散時の適正な株価の計算もあります。

だからといってそのような会社の株ばかりを買っても、バッフェット氏のような世界的な投資家にはなれないことは、容易に想像がつくでしょう。

ネットでは、「バリュー投資」がさも簡単そうに説明されています。しかし割安な株を買わなければその株で儲かることはできませんし、割高なものを信用売りしなければ儲けは出ません。

さらにその割高、割安をきちんと自分で見つけ出さなければ、利益も出ないことになるのです。

投資家は人格者でもあるべき

割安な株や価格の見つけ方の詳細は、バッフェット氏の師匠であり大学教授にして投資家でもある「ベンジャミン・グレアム」の「証券分析」という本に書かれています。

参考までに、グレアム氏もバッフェット氏も人間的に素晴らしい人格者です。投資家は人格者でもあるべき、ということも学ぶことができると思います。

少々脱線しますが、世の中の常識がない人間は投資の世界でも常識がなく、自分の利益だけを一番に考えるような人物は、投資にはまず向かないと思います。

ファンダメンタルズを学ぶ上では、人としての人格や考え方、そしてさまざまな想像力を働かせることも重要です。

私も人様のことを言えるような人格者ではありませんが、安いものを買うということを素直に受け入れ、常識を持ち合わせていないとしたら、まずは少なくとも社会のルールや規範を守れる常識人となるべきです。

斎藤一人さんが「普通でいることはつらい」と書いていましたが、まさにその通り、普通の人間として生きていくのがいかに難しいのかを考えさせられます。

常識人の仲間入りをするのにも相当な努力が必要で、ましてや優秀な人となるとブッダやキリスト、モハメッドになるのでしょう。まだまだ私は何もかも常識人としては足りないところだらけと感じます。だから私は、普通の常識人を目指して努力するのみです。

ファンダメンタルズを学んで投資に生かすのは必須のことで、発想が曲がっていたり、常識から外れたような考えを普段からする人は、投資では成功しないと思います。

年齢を重ねてくるとファンダメンタルズが分かるようになってくる部分もありますが、人生の経験を積んで常識を身に着けてきた、そういったことも要因になっていると思います。

また、各経済指標の数字を知ることにより、何が分かるのかも大事なことですが、そこから派生して推測して、この指標がこうなるはずだとか、今後世の中がこうなっていくはずだと、みんなつながっていることに気付くことになります。

常識のない方には、常識的な推測が難しく、推測したとしても誤った方向性に向かう可能性のほうが高いと思います。

日本の行動経済学の代表格は、さんまさんの、ほんまでっかTVに出ている沢口先生であると思いますが、多くの行動経済学者が言うように、人間は無意識に比較によって判断を下す傾向があり、意識をしないと絶対的な基準では価値を判断をしないということになります。

このことを、ノーベル経済学賞を受賞したカーネマン氏よりも、そしてその共同研究者トベルスキー氏よりも早く気づいて論文にしたのが、グレアム氏です。

内容が株のような俗物的なものでなかったら、この論文はおそらくノーベル賞にノミネートされても不思議ではないと思います。と、こんなに称賛をしていますが、私はまだ「証券分析」を読んでいません。(笑)

話は戻りますが、いずれにしても会社の株の価値は「時価×発行総数」によって分かることが理解できたと思います。

さらに本質的な計算をしたいと思う方は、「証券分析」を参考にやってみるといいでしょう。しかし、相当な数学的な技術を要求されると思います。

今年のノーベル経済学賞の教授によると、行動経済学は、誰もが知っていることに疑問をもち、解決方法を提示するのが大事なこと、と語っています。

株価や為替の分析も同じで、誰もが知っていることを疑問にもち、回答を出してみる、それが満点の方法になるということなのです。私はまだ、その道中ですが、自分なりにはそれなりの結果が出ているのではないか、と思います。

為替が割安かどうかの判断は、株よりも難しい

さて株価の割安な値段の算出方法は、なんとなくみなさん理解できたでしょうか。しかし為替の割安な値段を見つける方法は、株よりも数倍難しいことになります。

株と為替の違いとは、先にも述べたとおり、価格表示が絶対的か相対的かということです。

絶対価格である株の場合は、会社の売上や経費、総資産、借金など分析することで、ある程度の価格が見えてきて、それを総発行株数で割ればある程度分かります。しかし為替の場合はどうすればよいのでしょうか?

まず、ドル円の場合では、日本とアメリカの絶対的な価格を計算しなければなりません。絶対的価格の代表的な経済指標は「名目GDP」です。つまりドル建てのGDPを計算しなければなりません。

ただしGDPの発表は日米ともに3か月に1回しかなく、しかも確定値が出るのはアメリカの場合は3か月遅れ、日本の場合は確定値がなく最終発表は2か月半遅れになります。

ちなみに以前は3か月半遅れでした。1か月早くなったとはいえ発表が異様に遅いわけです。つまりGDPの発表を待っていたら、マーケットに対応できない可能性もあります。

しかし全く知らないよりは知っていた方がよいという意味でも、「前回の数字を使った説明」を見ていただきたいと思います。おさらいのためにまた改めての説明もしたいと思っています。

今回のこの割安、割高の説明は、前回よりはるかに高度な内容になっていますから、みなさんの納得度も違うのではないでしょうか。その基準値に間違いがないとした場合には比率を定め、それをドル円などの相場に当てはめればよいということになります。

ひとつの株価の適正値を調べるのも一苦労ですが、為替の場合はさらに大変です。国家の適正値を2つも調べ、そのうえそれに対応する比較係数を計算しなければならないのです。

為替は株よりも簡単なイメージがあってFXを始めた方も多いと思いますが、実は為替は、株よりもずっと難しいものだった、というわけなのです。