今回のお話は、長文です。
「GDPからドル円レートが算出できる」ということには、まだイマイチピンときていない方が多いと思います。今回は日米のGDPの推移から検証をはじめてみましょう。
上記は一人当たりの名目GDP値の日米比較です。「名目」ですので単位はドルです。
なお「ここの一人あたり」の意味はGDP総額を人口で割った数で、GDP総額とは若干違いますが、だいたいこの推移で合っていますので今回はこれで解説します。
日本のGDPはずっと横ばいだった
日本のGDPは青い線ですが、私が普段から言っているとおり1991年からほぼ横ばいです。
実際のところ日本はほとんど成長していないのに、マスコミの報道を見ているとなんだか成長しているような気分になりますよね。不思議なものです。
「失われた20年」と言われることがありますが、これは1990年から2010年までの20年を指しているのだと思います。そして2011年は東日本大震災のあった年です。
大災害が起こったら下がるのでは?と通常は思いますが、実際は上がっています。
なお2011年3月11日は誰にとっても忘れられない日だと思います。私にとってもそうです。あの苦しみは多分、個人的には生涯忘れないと思います。東日本と西日本ではかなりとらえ方が異なるようですが、やはり誰にとっても悲しい自然災害です。
ドル高円安相場がスタートしたのは2013年
上記のグラフの為替相場と一緒に考えていくとよく分かると思います。2008年のリーマンショックから2011年の東日本大震災までは70~80円の超円高でしたから、このときは世界的な大不況でした。
冒頭のグラフは1960年からのデータですが、大きく右肩上がりになっている赤い線のアメリカは、2008年に下押しをしています。ここ以外凹んだ年がないことをみると、2008年はひどい景気悪化であったことが分かると思います。
日本では2012年末、実質は2013年からアベノミクスがスタートしました。日本銀行による異次元緩和は2013年4月からのスタートです。
なおその前に、東日本大震災の影響で行われた国際的な為替協調介入は2011年の3月、4月であったことも忘れてはいけません。
すなわち2011年から、本格的には2013年からドル高円安相場がスタートしたのです。ドル高円安になったために、2013年から日本の名目GDPは大幅に下がりました。
メディアでは「アベノミクスによって日本は成長した」とばかり伝えられていますが、実際には正しいとは言えず、このようにドル建てにしてみると震災のあった2011年よりも低下しているのです。私がいつも、「アベノミクスなんて蜃気楼」と言っている意味もよく分かると思います。
アメリカの金融緩和策の拡大と停止の効果は
2015年10月のアメリカはというと、それまで行っていた金融緩和の拡大を停止しました。このことは日々のコラムでも解説しましたが、要はずっとお金をばらまいてきていて、この先もばらまきは続けるけれど増額はもうしない、という意味でした。
金融緩和の拡大の停止は「QE拡大の停止」ともいいます。アメリカは2008年のリーマンショック直後に金融緩和を行い、効果が出て成長を続けました。
しかし2015年に金融緩和を停止したことで、2016年の上昇角度は2015年までの成長と比べてわずかに鈍化しています。
「ケインズ経済学」と呼ばれる「景気の悪化に対して金融緩和が有効である」との学説が、正しいことにもなります。
日本への影響は
アメリカのQE拡大停止とともに、日本では2015年10月、チャイナショックによる日本経済停滞防止のため、日本銀行が金融緩和の追加を行いました。
これにより実質GDPは変わりなく上昇しましたが、名目GDPでみると以下のとおりです。
そして、2016年1月に「マイナス金利」を導入したことによって2016年は、名目/実質GDPともに上昇しました。
円建ての実質GDPをみると、安倍さんや黒田さんは「よくやっている」との評価になりますが、それはあくまでも国内の評価であって、国際的な評価であるドル建ての名目GDPでみると、「このお2人は何をやっているのでしょうか?」ということになります。
つまり、円安にならなければ日本経済は、ちっとも良くなったように見えてこないのです。
原油高と円安の関係
原油は物価に占める割合が一番大きいため、円安になれば原油価格も上昇し、経済成長を促進します。
現在の日本の状況は、円安と原油高がなくなれば、リーマンショックや震災以上のダメージを食らうことが明白です。それなのになぜか、政治家やメディアはのんきなものです。こんな日本の状況を楽観視している場合ではないと思います。
バブル期の日本
ここで、日本のバブル期の状況を見てみましょう。
これは名目GDP、ドル建てです。
このグラフをみても、日本の「バブル経済」は1985年から1995年の10年間を指すことが分かると思います。それより前の時期の成長の角度と1985年から10年間の成長の角度は、まるで違いますよね。
戦後から始まった日本経済のピークがこのバブル期であったことは、このときに既に生まれていた方もいない方も、お分かりになると思います。
このときの為替レートもチェックしましょう。
ドル円レートは1985年から一気に円高になっています。
1985年から何があったのかといえば、「プラザ合意」です。1985年9月22日にアメリカ・ニューヨークのプラザホテルにおいて、先進5か国(日・米・英・独・仏=G5)が、ドルを安く誘導して為替レートを安定化させることに合意をしました。
これをきっかけにドル円相場は円安から円高へと大きく変化していきます。このときのレーガン政権の経済政策は、「レーガノミクス」と呼ばれています。アベノミクスはこの言葉のパクリですね。
レーガノミクスとアベノミクスの大きな違い
当時のレーガン大統領はこのレーガノミクスで、個人の所得税や法人の法人税など広範囲にわたる減税を行い、さらに政府予算の支出を減らすことも同時に進行させました。
その結果、アメリカの消費はインフレによって傷ついていた状況から劇的に回復し、企業業績も回復しました。
アベノミクスでは、法人税は減税しましたが、庶民の負担となる税金は全て増税、そして政府の予算規模は拡大しています。つまり、レーガノミクスとは真逆のことを行っているのです。
ただ、レーガミクスでは、旺盛な需要があったため国内の製造業だけでは消費の拡大に追い付けず、そのほとんどを輸入に頼りました。この結果が莫大な貿易赤字と財政赤字です。一般的には「双子の赤字」と呼ばれています。
そして1980年代後半には日米自動車摩擦といわれる、貿易紛争が勃発しました。このころからアメリカは、すでに貿易の不公平を訴えているのです。それが現在のTPPなどの自由貿易構想にもつながっています。
プラザ合意のホテルとトランプ大統領の関係
少し難しい話が続きましたので、プラザ合意に関連した話に戻りましょう。
ニューヨークを代表するとも言われる高級ホテル、プラザホテルのオーナーが現在誰かは私はよく知りませんが、過去には、現大統領であるトランプ氏もオーナーだったことがあります。1988年~1991年です。
トランプ氏は前夫人とともに、世界有数の豪華ホテルを買収するために躍起になった結果、1991年に最初の破産をしています。
しかし1985年にこのホテルでプラザ合意が開催され、アメリカ経済が回復したことによって彼も復活しました。
ちなみに彼は復活後も再び破産を繰り返してしているのですが・・・。いずれにしてもトランプ氏は、自らの実体験からドル安の効果をよく知っていることになります。
トランプ大統領が本気でアメリカの経済回復を目指し、彼の公約である「アメリカ・ファースト」を実現するためには「ドル安が重要」ということも、分かっているはずなのです。
ムニューシン財務長官は資金調達のためにドル高としか言いませんが、これは、ドル債券への投資者を集める必要があるからです。財務長官まで「将来はドルが安い」などと公言してしまうと、誰もアメリカ債券を買わなくなってしまうでしょうからね。
ムニューシン財務長官はこの先も「ドル高」と言い続けるでしょうが、トランプ大統領の腹の内は「ドル安」ということ、忘れずにいただきたいと思います。
自分中心で、他人の利益を尊重しないから破産する
少々脱線しますが、トランプ氏がなぜこれまで、破産と成功を繰り返してきたかといえば、自分の利益を優先して、他人の利益をそれほど重視しないからだと思います。
Twitterなどのコメントをみるとトランプ大統領は、あからさまに他人の利益に対して不公平を言いますが、自分の利益に関しては黙して語りません。
トランプ氏のように頭もよくて才能がある人が破産と成功を繰り返すのは、他人の利益を尊重しない、ということにあります。これもトランプ嫌いの人々を生み出す要因でしょう。
人生において重視すべきは、他人の利益に寄与することであって、他人の利益を尊重すれば、自分にも自然にお金が回ってくるものだと、私は思っています。
日本にも残念な方はいると思います。現代社会においてはインターネット上に気軽に情報発信できるようになり、それが社会に大きな影響を及ぼしています。
インターネットで攻撃されることを恐れて、言いたいことも言えなくなった人がいる一方で、特定個人に向けた無責任な誹謗中傷なども公然と出回るようになりました。
個人で言いたいことはあったとしても、それを実際に書き込みという形で発言するかどうか、また言葉の選び方によって人の品性が決まってくると思います。トランプ氏は自由奔放に書き込んで、失敗と成功を繰り返しているタイプだと思います。
トランプ氏のような才能は私にはありませんが、ただ失敗はしたくないな、と思いますので、他人の利益は十分に重視をしようと心がけています。
世の中、便利になった部分もありますが、生きていく上での基本は変わりがありません。他人を尊重すれば、自分も豊かになれるものだと思います。
プラザ合意→ドル安→アメリカの成長が加速
さて、レーガノミクスとプラザ合意に戻って話をまとめると、レーガン大統領は、減税と財政支出の縮小によって経済を拡大させてインフレを収め、アメリカを繁栄に導きました。しかしその副作用として、貿易赤字と財政赤字をもたらしました。
財政赤字を減らすためにはドルの価値を減らす必要があります。貿易赤字も、商品の受け取り代金となるドルの価値を減らせば、減ることになります。
プラザ合意によってドル価値が大幅に下がったことが、アメリカの成長を加速させました。
1985年から1995年まで、ドル安円高が続きます。
このときには、ドル安円高となった結果、日本の成長も加速しています。つまり日本のバブルとは、プラザ合意によるドルの価値低下によってもたらされたということになります。
円高をものともせず、実質GDPの成長は下記のように伸びています。
円安にならなければGDPが上がらない、円高になると経済成長が止まる、と言われている現在の状況とは異なり、このような円高でも実質GDPは上伸して日本経済はどんどん発展していたのですから、このときの経済成長の勢いがどれほど強いものであったか、分かると思います。
安倍首相やそのブレーンのみなさんは、日本のバブルはドル安によって発生したと認識をしています。このためアベノミクスが成功した場合には、結末にはハイパーな円高を迎えると見ていることも、間違いありません。
バブル期の成長の勢いを、日米が再び望んでいる
「バブルのころはよかった」と、この時期を知る方たちは言います。上記の説明のように、円高でも日本の成長は衰えることがなかったわけですから当然でしょう。
プラザ合意の合意期間については、最初の1~2年のことしか指さないと説明する方が多いのですが、実際の影響は10年間続いたのです。トランプ大統領と安倍首相は、この再燃を狙っているとも考えることができます。
安倍氏もバブル期には神戸製鋼でサラリーマンをしていましたから、そのすごさは体感していると思います。
またトランプ氏の破産は、当時絶好調だった日本の銀行に融資を断られたことであったと本人も認めていますから、日本を恨んでいるはずという当初の報道は当たっていると思います。
その後レーガン政権のドル安政策によって彼は救われ、再び栄華を極めることができたのですから、トランプ氏は現在のアメリカ経済の好調さにはまだ満足していないはずで、レーガン政権のときのような経済成長の再来を望んでいると思います。
レーガン大統領が就任したばかりの1980年前半は、アメリカ経済が悪化していることが分かると思います。しかし就任後に急激に成長が加速しています。
1975年に終戦したベトナム戦争を引きずって国全体が沈み、厭戦気分が漂っていたところに光を差したのがレーガン大統領であったということも分かると思います。
なお1991年1月17日に湾岸戦争が始まったところでその成長は止まっていますが、もうひとつ注目するべきは、レーガン氏の退任が1988年で、その後米国経済が軽いリセッションになっている点です。このタイミングで湾岸戦争が始まった理由も分かると思います。
アメリカの北朝鮮への対応の方向性も見えてくる
となると、北朝鮮の可能性を測るためには2017年の経済成長が重要ですが、現在の数字をみると、おそらく北朝鮮への攻撃の可能性は少ないということが分かると思います。北朝鮮への攻撃は、アメリカの経済成長が鈍化すれば濃厚になります。
いつも言うように、北朝鮮へアメリカが攻撃するかどうかはアメリカに決定権があります。
アメリカの景気が良いときには攻撃の可能性が縮小します。アメリカの経済指標が良いときに限って、北朝鮮がミサイル発射や核実験を行っているのが偶然ではないことは、指摘しているとおりです。
また北朝鮮は、経済指標発表が集中する月末から月初めにかけて、実験や発射を繰り返しています。2015年のチャイナショックにしても、2014年のアメリカの経済成長が加速している年末やお盆休みに発表を行ったのです。
北朝鮮と中国の考えていることは一緒ですから、今年の年末は、中国が変な発表をしないかどうか、注意が必要でしょう。
バブル期と現在では、公式が一致しない
私が日々コラムで言っているアメリカと日本の強さを表す不等号の理論が重要であること、皆さんも認識していると思いますが、過去のバブル期と現在では公式の答えが異なります。
「アメリカ>日本」の場合は円高
「アメリカ<日本」の場合は円安
現在はこの公式の認識だと思います。
1987年までは
「アメリカ>日本」になっていますが、
1987年は
「アメリカ=日本」になり
1988年以降は
「アメリカ<日本」になっています。
このときの為替は、1987年ごろからドル安が一服し、1990年まで円安になっています。
GDPは「アメリカ>日本」から「アメリカ<日本」に変わっていますから、私が提唱する理論どおり、「アメリカ<日本の場合は円安」です。
ところが、1990年から1995年にかけては、為替は120円から90円までに急騰している一方で、GDPは限りなく「アメリカ<日本」になっています。そして私の理論上では円安にならなければならないはずですが、円高になっています。
このときは例外と言える、わずか3年の間で30円も円高になっているのですから、何か特別なことが起こったのだろうと予想がつくでしょう。
実際に何があったかといえば、日米貿易摩擦です。日本は自動車や鉄鋼などの自主規制を行うとともに、ドル円レートも円高に誘導しました。
日本銀行の公定歩合も、本来必要なかったのに当時の総裁であった三重野氏が引き上げたと、今でも批判の対象になっています。また日本の不動産への総量規制が行われたのもこの頃になります。
自民党には、アメリカの外圧によってバブルを崩壊させられた、という思いがあるはずです。
日本とアメリカの関係には軍事力の問題が
では、なぜアメリカの外圧に逆らえなかったのか、といえば、自衛隊の問題です。
要するに日本が軍隊を持てないこと、安全保障条約によってアメリカに無償で基地を提供していることが、アメリカの外圧を許している根源だとも思います。日本がアメリカに頼らずに自国で軍隊を持てば、アメリカの外圧もなくなることは間違いありません。
日本は軍事力という経済負担をしないのだから、日米安全保障条約で日本を守る約束をしているアメリカが経済的優位をもつのは当然だ、という主張。私がアメリカ人であれば、当然トランプ氏と同じことを言うと思います。
戦争になったときには、アメリカ人は日本人を守るために戦って命を失うリスクがあるのです。
そんな覚悟をしてくれている人たちに対して日本人は感謝の気持ちが足りなさすぎる、と感じます。騒音がうるさい、事件など起こすとアメリカ軍は出ていけ、と言う。
オスプレイが墜落してもすぐに飛行を再開して生意気だ、などといった報道ばかりされていますが、現地部隊を預かる指揮官からすれば、戦争になったら戦う兵士の命を預かっているのですから、墜落しても被害がなかったのなら、戦争で命を落とさないための訓練を一日も早く再開したいのは当然のことでしょう。
アメリカ人に守ってもらう認識がなく、「私たちの生命の危険が脅かされる」とだけ言うのは、自分の立場しか考えていない偏った主張だと思います。自分の命を他国の人のためになくす可能性もある、彼らの気持ちを考えると、あまりひどいことは言えないとは思います。
もちろん、アメリカ兵が日本国内で違法行為を犯し、そして、その処罰は厳重に行うべきですが、厳重に抗議するにしても、わきまえた言い方はあると思います。
自衛隊やアメリカ軍の車が走っているのを見るとやはり、恐怖を感じるものですから、日本人の気持ちも分からなくはないですが、批判するにしても全体の背景を考えてするべきだとは思います。
アメリカは軍事力提供、日本が費用負担の構図
アメリカ政府としては、自国の兵士が他国のために戦うことを有権者にどう納得させるのかという問題があり、その結果、1990年代からアメリカ軍に対し、日本から思いやり予算と称して「在日米軍駐留経費負担」の予算がつけられました。
しかしアメリカ人ならそんなものでは足りない、と感じるでしょう。
軍事面でアメリカは一方的に不利益を被っているのですから、日本は経済面で譲歩をせよ、となり、この背景があるから日本政府には、アメリカ政府から毎年要求を突き付けられるのです。
アメリカからすれば当然の要求です。そして日本では、要求に応えるのがつらくなってきたから、憲法を改正すべき、いう議論も噴出するのです。
そもそも日本はアメリカのおかげで、ここまで戦後復興できたしこれだけの経済大国にもなれました。こういう話をすると「アメリカも十分日本で儲けているじゃないか」という人が必ずいますが、それは自国だけを過大評価しすぎです。
もちろん、アメリカの経済が傾いてきたときには要求が過大になるという欠点もあります。そこで日本の政治家が強気に出られるか、といえば出られるわけがないと思います。
不平等の解消のために日本が軍隊を持つ、ということに反対もできませんが、平和憲法9条の改正はしないでほしいとは思います。
レーガノミクスはアメリカの政策の成功例
アベノミクスで金融緩和が行われたとき、各国の通貨安競争について報道されたことを覚えている方もいると思います。
ベトナム戦争によって落ち込んだアメリカ経済を立て直すために行われたレーガノミクスは、減税、財政の縮小、そしてドル安の3つのセットになって行われたことが肝要です。
レーガン政権誕生時はインフレでしたので、金融引き締め、つまり金利を引き上げて通貨供給を減らすという政策が行われました。
このことで余計にドルの価値が上昇してしまったので、苦肉の策でプラザ合意を行い、ドルの価値を引き下げました。
これがたいへん良い効果が出たことから、9.11やリーマンショックの時にも受け継がれ同様の金融緩和の方策がとられ、いずれもしっかり効果が出ています。
これらのことからもトランプ大統領は今後、ドルの価値を下げることと、減税と、財政縮小をセットで行ってくると思います。彼自身もレーガノミクスで破産から立ち直れたのですから、レーガン大統領の政策を成功例として憧憬していることは間違いありません。
世界の国もこれを見て、通貨安の政策を導入したがり競争になるのは当然の話です。
通貨安政策はまずアメリカから始まる
世界経済の震源となっているアメリカのドルは、基軸通貨でもありますから、ドルを安くすることから始めなければ、ということで通貨安政策はまずアメリカから始まりました。
リーマンショック発生直後の2009年からアメリカが金融緩和をはじめ、日本はその後2013年から開始しています。
アベノミクスの異次元緩和のことです。円は安くなり、相対的にドルは上昇しました。そしてこれが軌道に乗ったところで次は、ユーロが2014年から金融緩和を開始したのです。
これらの流れからも、2013年から現在に至るまでは「アメリカ>日本」ですので、私の理論では「円高」です。特別な政策がなければ円安にはなりっこないにもかかわらず、円安を期待する人が多いことには驚きます。
レーガン大統領がドル安にしたことでアメリカ経済が劇的に復活したように、日本でもアベノミクスで円安にして経済が復活することを期待したわけですが、現状、その結果は出ていないので、異次元緩和として延長しています。
日本の金融緩和の出口論として、日本銀行が市場に資金を大量に供給するのをやめるのだという議論をしている方は、このへんの理解をしていないことになるでしょう。名目GDPをみれば、出口論を議論する段階にはまだないのです。
他国の状況も確認しましょう
参考までに、ユーロ経済圏で一番の大国であるドイツの名目GDPも足してみました。
これを見れば、ドラギ総裁がそれほど金融緩和に前向きではない理由が一目瞭然でしょう。回復しているのはアメリカだけであり、日本とドイツは似たようなものです。
中国はというと、成長が完全に止まってしまっています。日本の高度成長が終わったときのように緩やかになるのではなく下向きになっているのですから、中国経済の高度成長がこれで終わったとしたら、これから大変なことになる可能性のほうが大きいと思います。
日本経済は良い、良いと騒がれていますが、一人当たりのGDPにするとドイツには抜かれている点にも注目するべきでしょう。これで、本当に日本は良くなっていると言えるのですか?円安ですか? ということです。
日本が成長するとされている要因、日本円が円安になるためには、日本の景気がアメリカより良くならなければならないのですが、実際のところはほぼありえないでしよう。
日本は、人口が減らないとしても高齢者の割合が増えていくだけですから経済成長はさほど見込めませんが、アメリカはこれからも若年層の人口が増えて、経済も成長していくことが見込まれます。
日本経済が良くなるとしたら、団塊ジュニアと呼ばれる世代がひととおりこの世を去る50年後、2060年くらいですから気が遠くなる話です。それまでは日本の人口ピラミッドはいびつなままです。
まとめ
アメリカと日本の比較から、力関係、そうなる理由などいろんな方面のお話を長々してしまいましたが、みなさんついてこられたでしょうか。
最後にまとめると、自然の流れを待たずに円安にするためには、国際的な合意と協力を得た大規模な金融緩和策で円を安くしていくほかありません。
しかしトランプ大統領の政権公約「アメリカ・ファースト」を実現するためには、アメリカがもっとドル安にする可能性が高く、となると相対的に日本は円高になってしまいます。
円安になるためには「日本>アメリカ」になる必要がありますが、政策的にも日本はアメリカに軍事面で法律上、憲法上、頼らざるを得ない状況ですから、経済面でアメリカを圧倒して日本が強くなることも、できない可能性が非常に高いのです。
アメリカに頼らなくてもよいようにするためには、日本は憲法の改正が必要で、アメリカに頼らない代わりに日本の要求が通るようにしていくしかないと思います。
現政権の憲法改憲論議は、仕方のないものであることも理解できたのではないと思います。しかし心情的には、平和憲法を守り続けたいという気持ちももちろん分かるのです。
今年、アイキャン(国際NGO であるICANによる核兵器廃絶国際キャンペーン)がノーベル平和賞を受賞しましたが、誰もが納得できるような主張だったと思います。
この流れで、憲法改正で日本が軍隊を持つことが本当に良いことなのか、と問われれば、答えに詰まることになるでしょう。
結局は世界平和が一番であって、それは中国でも北朝鮮の指導者でも同じ気持ちはあると思います。にもかかわらず、なぜ戦争を始めたいような行動をするのか、疑問です。私の浅知恵では、自分のことしか考えていないからなのであろう、と思います。
韓国から駐留米軍を追い出したところで、北朝鮮や中国になんの利益があるのでしょうか。まさか、侵略なんて時代遅れで非現実的なことを本気で考えているのだろうか、と思います。
中国の場合は、弱気の姿勢を見せたら共産党自身が倒れるから、と分かります。しかし北朝鮮は、あの一族が危機にあるからやっているようにも思えませんし、何が目的なのか全く理解できません。
いずれにしても、今回のお話を理解していただけたとすると、円安になる可能性があるとしたら政策的に行うしかなく、政策で対応できない現実からも円高となる可能性のほうがはるかに高いことになります。為替相場は結局、政策で動いているものなのです。