第二次世界大戦以前のヨーロッパは、世界の経済と政治をリードする立派な「覇権国家」でした。しかし大戦後、その地位も覇権もアメリカに奪われてしまいました。

一国ずつでは人口も経済も小さいヨーロッパの国々。再びアメリカをしのぐような力を持つためにとヨーロッパの国々は同盟を結び、主には経済的な思惑により連合国家となるべく、ユーロ(EU European Union 欧州連合)の同一通貨圏構想が誕生しました。

なお表向きの理由としては「戦争だらけだったヨーロッパに二度と戦争が起こらないようにしよう」というものです。人の行き来を自由にし、パスポートも関税もいらない国家形態になってみんな仲良くしていきましょう、というのがユーロ設立の趣旨です。

ユーロ連合国家になってGDPはどうなった?

下記のグラフは、アメリカとヨーロッパ主要各国のGDPです。アメリカとの格差が年々広がっているように見えるのは、私だけではないでしょう。

GDP生産 1970年~2016年(アメリカとヨーロッパ主要国)

アメリカのGDPは1978年に2兆ドルに達し、2016年は18兆ドル弱まで成長しています。これに対してユーロ加盟国各国は現在も、アメリカの30年ぐらい前の金額のところでドングリの背比べ状態です。

そして、下記の表は、EUの結成、通貨がユーロに統一された年からのものです。アメリカは右肩上がりであることが一目で分かりますが、ユーロの国々はいかがでしょうか?上を向いているような気もしますが、横ばいのような気もします。

GDP生産 2000年~2016年(アメリカとヨーロッパ主要国)

分かりやすくするためにアメリカを除いてみましょう。グラフはこうなります。

2008年くらいまでは同じような成長率になっていますが、それ以降は「ドイツの一人勝ち状態」になっていますね。

ユーロ皆平等とはならず、伸びたのは1国だけ

アメリカに対抗をするために、お互いを高め合って成長する為にと同一通貨圏構想ができたはずなのに、結果はドイツしかよくなっていない状態です。しかもそれ以外の国はほぼ、ドイツが経済成長をした分だけ下がっているような状況です。

ドイツがこのユーロ結成によって何をしたのかは明らかです。本来ならアメリカから利益を奪わなくてはいけないものを「近隣のユーロ諸国から奪ってしまった」のです。

利益を奪われた国々はたまったものではありませんよね。

そんな中でイギリスだけは、2013年くらいから中国との貿易を積極的に行い、多少国力を上げました。

しかしご存知のとおりその国力はあの2017年の「ブリグジット」EUからの脱退騒動で失速することになります。

ユーロ離脱問題が起こる理由はドイツのひとり勝ち

イギリスだけでなく、ユーロからの離脱問題や独立問題はユーロ各地でたびたび起こっています。これは、ユーロ結成で利益を出しているのは「ドイツだけ」という結果からくるものです。

個人的な意見を言うと、ドイツ以外の国の主張は「負け犬の遠吠え」に聞こえなくもないのですが、ドイツはユーロ結成の表向きの理由を反故にしてまで、自国の利益をユーロ経済圏諸国に求めたのですから、他諸国が怒るのも無理はないとも思います。

ギリシャ危機のときには、ギリシャのユーロ脱退についてもさんざん議論されましたが、ユーロの脱退の条約に規定がないため、いまさらユーロ崩壊はできないのです。

このまま状況が変わらない、または悪化すれば、またドイツ一人が悪者になって、戦争が始まってしまうのではないのでしょうか。

しかし、誰もが「できない」と思っていたにもかかわらず、現にイギリスはユーロから離脱をすることにしてしまいました。今後ユーロは、これ以上脱落者を出さないようにと引き締めにかかるでしょう。このときにドイツが出すぎると、また戦争の危機です。

発言権があるのはドイツのみ。まとめ役がいない

しかし実際のところ、圧倒的な発言権はドイツにあります。フランスはそれほど影響力があるわけでもなく、これまではイギリスがまとめ役のような存在でした。

「ブリグジット」でイギリスが抜けてしまったら一体、どの国がユーロ経済圏をまとめることになるのでしょうか。

イタリアやスペインなど、経済的に落ち込んでいる国が意見したとしても、他の国は決して従おうとしないでしょう。

ドイツが発言すれば他のヨーロッパ諸国からは「ヒトラーの再来」などと言われてしまいます。

ユーロ各国の主要産業も、経済力が偏る一因

もともとユーロ圏内は基本的に自給自足ができている経済圏で、他の経済圏から輸入するものといったら、旧ロシア諸国からの石油、天然ガスぐらいです。

食料はほぼフランスが供給をしており、工業製品はドイツが生産する、という住み分けができています。ちなみに、食料生産が有限であるのに対し、鉱工業は無限に生産できることから、経済が落ち込んだときにも無限に製造を続けられるドイツが圧倒的に有利になるのです。

日本においては特に、ドイツに次いでフランスが多方面において洗練されている国、というイメージが強いと思いますが、実はこれ、みなさんの勘違いかもしれません。

フランスは農業国で、生産物のほとんどが農業作物です。

だからこそ「美食の国」ともなっているわけなのですが、つまり、食べ物に困らないから問題ないし、それ以上は求める必要もない。たとえ求めたとしても、自然由来の農産物は生産量が限られてしまいます。

つまり、フランスは基本的に経済成長の幅が少ないのです。

イタリアは、現政権はまともになりましたが前政権にはかなり問題がありました。成長はしていても基本的にはギリシャと同様です。G7に残っているにもかかわらず徴税能力のない国家としても有名です。

というわけで、生産余力がある国はドイツのみ。その力でユーロ諸国全体を潤していければよいのですが、ドイツは他国から利益を得て自国を成長させようとしたとき、アメリカからではなく、取りやすかった近隣諸国から取ってしまった結果が、現在このような大きな問題になっているのです。

ユーロが上がると言われているけれど

このような状況でみなさん、ユーロがうまくいくと思いますか?

来年は「ユーロが最強通貨になる」との予想も出ていますが、ユーロが上がったとしたらそれはユーロの強さのせいではなく、景気循環の一環なだけです。

本当の要因は「ドル安」です。実は、アメリカがドル安に傾ける可能性があるのです。

ユーロでは南欧債務危機が収まり、金融緩和も盛んに行われました。ですから経済指標上では強くなったように見えて当たり前なのです。

ユーロは今後、どうなるのか

さて、それでは最後にもう一度、アメリカとユーロのGDPを確認してみましょう。


上記のグラフを見れば、ユーロ経済圏がアメリカに対抗するのは無理だろうと、どなたでも感じると思います。

今の高すぎるユーロレートを、本来あるべき適正なレートに戻すことが先決であると思います。アメリカに完全に抜かれる日はもう近いです。ある日突然の通貨安に陥れば、ユーロ経済圏全体が不安定になってしまうことでしょう。

なお、上記のグラフではアメリカと比較にならないように見えますが、下の方に並んでいる国々をまとめて「ユーロ」一つとして見ると、2015年のGDPランキングは1位アメリカ、2位ユーロです。

ここ数年はこの順位なのですが、ユーロ結成以来、1位はユーロの指定席でした。しかし本来は1位と2位が逆になるべきなのです。この状態は、何を意味するのでしょうか。

この先、「1ユーロは1ドル以下」になるかもしれないということです。

そこまで行っても不思議はないですし、通貨安のほうが欧州の金融担当者も都合がよいものです。それに反対するのはトランプ大統領だけでしょう。

アメリカのトランプ大統領は「ユーロ高・ドル安」を狙っています。もしユーロが下がれば、ドイツが同盟諸国から利益を吸い上げるような弱い者いじめもなくなるでしょう。