「別の記事」でクロス円の相場の予想をしました。日本の名目GDPが動かないと仮定すると、投資したい国の名目GDP通りの動きになると、基本的には考えてよいと思います。

今回はアメリカのトランプ大統領がしようとしていることを読み解き、日本への影響を考えるとともにドル円の相場が今後どうなるかを考えていきたいと思います。

アメリカ・ファーストの意味

今年、トランプ大統領が就任してさまざまな物議を呼んでいますが、彼の政権の公約は「アメリカ・ファースト」です。この言葉はトランプ氏自身の登録商標だそうです。

ちなみに彼は4年後の再選挙の言葉もすでに登録商標していて、「グレート・アメリカ」だそうです。

この「アメリカ・ファースト」、みなさんもよく耳にしていると思いますが、内容までご存知でしょうか。

まずはもちろん「アメリカが一番になること」、そのままの意味ですが、そのためには具体的に何をやろうとしているのか、日本や世界への影響を知るためにもきちんと理解しておいたほうがよいと思います。

今年トランプ大統領は、移民制限やインフラ投資などを行いました。これらはすべて、アメリカがナンバー1になるためにやっていること、とまずは考えてください。そうしないと、この先の彼の行動が全く読めなくなると思います。

移民制限やインフラ投資もアメリカが良くなるため

移民制限は、アメリカナンバー1になるために行った政策であり、人種差別が目的なわけではないのです。

「アメリカは移民で成り立っている国なのに、移民を制限するとはけしからんことだ」という意見がありますが、これは論点が異なる解釈をした意見であると言えます。

移民の中に危険な人物が含まれている可能性は、確かにあるのです。危険人物を入国させることで、アメリカが9.11のようなリスクにさらされることを懸念しているのです。

ですから、移民の往来の自由を許してアメリカ人の安全が脅かされるよりも、今後は制限して安全な環境を整備しよう、ということなのです。ここだけ考えると、別に批判されるようなことは行っていない、と考えられるのではないでしょうか。

このようにアメリカ全体が同じ方向を目指せば議論にはならないのでしょうが、それ以前に、アメリカでも日本でも「トランプ嫌い」が先に来て、人種差別主義者と言われているのです。

なお過去にトランプ氏は、所有するアパートメントで有色人種の入居を拒否したことがあり、ニューヨーク市から有罪判決を受けたこともあります。嫌われているからこのような過去のことも、掘り出されて釣り上げられてしまうのです。

現実的なことを考えてみると、大統領であればアメリカ市民が安全に暮らせる環境を優先するのは普通のことだと思います。しかしそこには焦点が当たらず、トランプ嫌いの人々が彼を非難することを、マスコミが煽って便乗しているのだと思います。

インフラ投資にしても、「アメリカの財政が厳しいから、(政府予算とは関係ないところで)ファンドを組成して投資を行う」と言っているのに、反対派の中には、「そんなものは政府予算でできるはずがない」と誤った解釈をして意見しているアナリストもいます。反対意見を言うにしても、よく調べてからにしたほうがよいですね。

パリ協定に参加しない、TPPも参加しない、と言っていますが、アメリカに有利な条件に変更してから参加したいのでしょう。トランプ氏自身が誰よりも、アメリカが世界から取り残される可能性をよく分かっているはずから、周りが大げさに騒ぐ必要はないのです。

トランプ氏は、思い付きの言動と思い付きの行動力で人々を不安にさせていることは事実だと思いますが、深く分析してみると理に適っていることしか行っていません。

日本では、TPP離脱で二国間交渉になれば、アメリカから何を要求されるかわからないから警戒すべきだ、と言われています。

この問題は、「別の記事 」でも述べた、日本が軍隊を持って自衛権を確立すべきかどうかの議論につながります。経済面で日本が不利な条件を受け入れなければ、安全保障のことを指摘される状況がここ数年何度もあったため、日本の首相は必死なのだと思います。

日本でアメリカのような移民受け入れが始まるとしたら?

移民の問題が人種差別と言いますが、危険人物を入国させるよりもきちんとした入国審査をしたほうが、よほどアメリカ市民のためになります。

アメリカにはこれまで、審査らしい審査がなかったため、自由に入国させる制度を見直そうというのがトランプ氏の意図です。審査に通った人だけ入国できたほうが、安心は安心ですよね。

例えば日本で、移民を受け入れてはどうか、となったときには、同じことが起こるはずです。アメリカよりひどいかもしれません。移民に反対する人たちが必ずいます。

移民が入ってくることで治安が悪化するのではないか、と誰でも思うでしょう。有権者は、受け入れ審査を相当慎重に行うように求め、政府も実際に行うことになるでしょう。

自分の国でも同じことが起こる、と簡単に予想できるのに、アメリカで移民審査を厳格にしようとすると、日本人や日本のメディアが批判をするのか、理解できません。単なるトランプ嫌いとしか思えません。

貿易問題と有事の軍事力問題の背景は

また貿易問題にしても「アメリカに国益を奪われる」と国会議員やメディアが騒ぎますが、国益とはそもそも外国や有権者が運んできてくれるものであって、自らで作り出してコントロールできるものではないと思います。

名目GDPを研究すれば、戦後復興から1995年まで日本は、為替レートによってアメリカより有利な条件で貿易の恩恵を得てきたのです。これまでが、アメリカの行為に甘えていただけなのです。

この秋の日米首脳会談で、アメリカの言いなりだとか、なんとか言われていますが、日本が有事のときにはアメリカが助けてくれる約束になっていることを、認識していない日本人が多すぎると思います。

例えばもし北朝鮮との有事の際には、アメリカは若い兵士を日本を守るために差し出してくれるのです。そのアメリカ軍の負担を減らすために、大量に軍事兵器を買って備えること、当然の行為だと思うのは私だけなのでしょうか?

アメリカ軍の飛行機から物体が落ちて、けが人が出たという報道もありましたが、アメリカ兵士に対して、飛行機がうるさいだの、犯罪ばかり起こす、と文句を言う前に、彼らの自尊心をもっと高めるようにしてあげてはどうか、と思うのは私だけなのでしょうか?

彼らは、自らの意思ではなく上官の命令で、日本のために、自分たちの命を投げ出すかもしれない人々なのです。上官も、日本人の命を守るために訓練をしているのです。

こういう話をすると、過去の経緯を持ち出す人がいますが、過去の経緯は、お互いそれが良い結果になると思って合意した内容です。今議論しても仕方がない、大事なのは今であって昔ではないと思うのです。いずれにしても、日本がアメリカから安全保障を受けていなかったらこれほどの経済発展はなかったでしょう。

トランプ大統領から、貿易がアンフェアだとの意見が出るのも当然です。貿易赤字が何年も続くと、アメリカの製造業が窮地に立たされてしまうからです。

車をはじめとしたアメリカ製品が日本で売れない理由は、合理性ばかり追求していてデザインが格好よくないからなのですけれどね。アップルのスマホのように格好よいデザインにすれば売れるのです。これからの時代はデザインも必要だと思います。

とにかく、貿易赤字が問題であるため、トランプ大統領は対アメリカ貿易で赤字の国をターゲットに文句を言うわけですが、アメリカからの輸入関税は全くかかっていないのに、関税が高いなどと思いつきで言うから、批判を浴びるのです。

トランプ大統領にしてみれば、どこの国から赤字を減らすかは問題ではなく、減りさえすれば成果になります。

中国の貿易赤字が多いから日本より先にするべき、ではなく、やりやすそうな日本から始めて、黒字になった分で中国の赤字を補填してもいいのです。安全保障のことがあるため、日本から取りやすいというのは事実ですから、日本にはきっちり約束させるのです。

アメリカが不利になっている部分を見直す公約

アメリカをナンバー1にするという「アメリカ・ファースト」は、アメリカが不利な条件になっている部分をすべて見直し、改善していくという公約です。

彼にとって日本や韓国は、貿易赤字解消をしやすい認識だから、名指し発言にもつながるのです。

アメリカ車の輸入関税がかかっていないことなんて知らないけど、安全保障してやっているのだから、そんな勉強しなくても大丈夫だろう、と思って甘く見ている証拠でしょう。逆に中国は手ごわいからうかつな発言はしないのです。

このようなことを考えてみると、トランプ大統領の発言の傾向も分かってきます。

G7での言動も、世界の好意でユーロ安を容認した不利益を一番被ったのはアメリカだと思っているからでしょう。ユーロ安の恩恵を最も受けたのはドイツだからとドイツに厳しい要求を出して、メルケル氏とは喧嘩になったのです。

言動の端々にも見られますが、トランプ氏は根っからのビジネスマンです。ビジネスとして、手ごわい相手とそうでない相手を見極めて、コロコロ態度を変えているだけの話なのです。

安倍首相はアメリカに有利な条件ばかり並べるから、今のところは仲良く済んでいます。もしこの先、アメリカに有利な条件を提示できなくなれば、あいつは使えないやつだから、とすぐ切り捨てられることになるでしょう。

そういえば晩餐会でトランプ氏は、安倍氏に、先の衆議院選挙では楽勝だったろ、となどと言っていましたが、これは一連のロシア疑惑と同じ構造だったのかな、と思わせる発言でした。調子に乗ると話してはいけないことことまでつい話してしまうタイプのようですね。

こうやって書き出してみると、ある意味非常に分かりやすい人だと思うのですが、なぜかみなさん分からない、分からない、と言いますよね。不思議です。

この先トランプ大統領がしようとしていること

「別の記事」でも解説しましたが、トランプ氏が第二のレーガン大統領を目指していることは確実です。レーガン大統領がレーガノミクスで行ったことを整理してみましょう。トランプ大統領も、これらの問題を順に解決していくと思います。

・減税
・インフレ抑圧
・貿易赤字解消
・財政赤字解消

上記に一番効果があったのは「プラザ合意」でした。つまり、ドルの切り下げです。

トランプ氏はドル安にしたくて、先のユーロ圏首脳との会談では、アメリカのドル高によって一番恩恵を受けたドイツが次に一時的に不利益を被るのは当然だろう、とメルケル氏に迫りました。

しかしメルケル氏が拒否したことで、拒否するならユーロ高だ、とやったためユーロが急騰したのです。減税政策には、米国内への資金流入を促進する「レパトリ減税」も含まれます。

この一連の法人税改革も通ると思いますが、レパトリ減税をすることで新興国からの資金がアメリカに還流します。巨額の財政赤字を減税で補って無理やりドル安に持ち込もうとしているのです。

日本の経営者は減税で得られた利益を貯めこんでしまいますが、アメリカでは企業への減税で浮いたお金は投資されて当然ですから、国全体が発展していくという構図です。

通貨の価値とはその国の徴税能力で決まりますが、減税によって本国に資金を還流させ、それに投資をさせ、財政赤字は長期で回収するということなのです。次期FRB議長は成長会計への方程式で有名な人ですので、このための金利操作にも長けているでしょう。

つまりインフレを意図的に起こしますから、その結果はドル安になるでしょう。FRBが金融緩和を停止すると需給の観点から通常は「ドル高」になりますが、金利を引き上げてインフレを誘発すれば「ドル安」になります。そのうえ、財政赤字であることも「ドル安」要因です。

また、「ウォール街改革」の目的は株価の上昇です。財政赤字拡大によって今の低金利が解消すれば株が安くなる、これを見越して改革しようとしているのです。

さらにここでセットでオバマケアの見直しが入ります。オバマケアは、リーマンショックで危機に陥った大手保険会社のAIGの実質の救済策として誕生したのです。

オバマケアを縮小したらAIGがまた危機に逆戻りしてしまうため、ウォール街改革が必要なのです。ちなみにオバマケアは、日本の公的な社会保険や健康保険とは異なる、民間の保険会社が主体の保険です。

プラザ合意のようなセレモニーはしないと思いますが、これらの流れからも来年はドル安になると思います。

第一弾が法人税減税で、金利が上昇したらFRBに声をかけてさらにインフレを加速させるでしょう。そしてドル安もインフレによって加速させる、その結果景気が拡大し、税収も安定したところでドル高方針に転換、というシナリオです。

彼の任期があと3年、この間に半分くらいできればよいのではないでしょうか。

そして、名目GDPのチャートの角度が急上昇すれば、「第二のレーガン誕生」というシナリオになっており、非常に分かりやすい人なのです。オバマ大統領のときは皆目見当がつきませんでしたが、トランプ氏は予想しやすい行動しかしない人です。

今考えていることや次の行動が分かりやすいトランプ氏

トランプ氏は、普通は大統領になったらそんなことは言わない、ということまで発言してしまうため、品がないと言われています。

例えば、次回の大統領選挙で民主党の女性候補がどうせ出てくるだろうが、あんなのは楽勝とか、女性差別の発言が問題視されましたが、あれも単なる腹いせだったようです。

FRB議長のイエレン氏が指摘したことにトランプ氏が感心して、議長を留任させようとしたのですが、彼女は次回の大統領選挙では民主党の候補を応援することを理由に慰留を辞退しました。断られたことに腹を立てて、あのような発言になったのです。

トランプ氏は、頭にきたことをそのままTwitterに投稿します。大統領としての品格は下がるとしても、今彼が頭にきていること関心があることが、大衆にまで周知されて非常に分かりやすい、彼の次の行動も予想しやすいと思いませんか。

日本への影響、2018年のドル円はどうなる?

アメリカの国力が増大する見通しであることは分かりました。では日本への影響はどうなるでしょうか? 「アメリカ>日本だから円高」という認識でいてよいのでしょうか?

日本の景気も現在、結構良いと言えます。しかし衆議院選挙の圧勝を受けて、予算の配分は相変わらずです。幼児教育無償化など相変わらず、日本の発展にすぐ結びつくとは思えないばらまきです。

日本は結局、横ばいのままの見通しとなるでしょう。そのうえ円高ですから、来年の名目GDPは下がることになるでしょう。

国力において、アメリカはものすごく強いけれど、日本は横ばいか下向きです。当然「円高」になりますね。

おまけに企業は4~9月の間の利益はひたすら自社株買いと内部留保です。消費増税は2019年、不況に向かいますから設備投資もせずひたすら貯め込み、株価を下げないように株主だけには還元して、あとは自社株買いです。

家計のほうも、消費増税を控えていては、使うわけがありません。このような状況で、来年日経平均が3万円になる可能性は、非常に低いと思います。

それでも、今年の日本経済の流れをみると、1~3月は不調でしたが4~9月は好調です。9~12月はまだ数字が出ていませんが、好調でしょう。10月になぜ衆議院選挙を行ったのかといえば、2016年の4-9月期の名目GDPがマイナスだったからです。

2016年4~9月期が悪かったら日本経済は横ばいなのですから、それを平準化するために2017年4~9月はよくなって当然です。2017年1~3月は不調だったのですから、2018年1~3月は相対的に好調になるでしょう。

2018年アメリカ経済の見通しは?

アメリカはというと、2017年1~3月が不調であったことから、トランプ大統領がいきなり北朝鮮を問題視し始め、結局シリアを攻撃して自身の支持率を上げようとしました。

しかし現在は株価好調で、支持率は反転上昇こそしていませんが下落だけは食いとめましたので、北朝鮮への攻撃はないだろう、と読み取れます。

アメリカの税制改革は2017年末か遅くても2018年初頭には決定しますから、2018年1~3月はおそらく財政赤字から金利上昇、結果的として株安、ドル安となるでしょう。

冬の間は地理的にも大雪という大きなハンデがありますのでアメリカも無理しないでしょう。本番は春になってからだと思います。

トランプ氏自身のイベントとしては秋に中間選挙がありますので、そこに照準を合わせるためには、1~3月期に減速させて4~9月に好調ムードにしたほうが、選挙には勝ちやすいですね。それだけのことです。

日本は2018年、不景気の見通し

日本も国政選挙はありませんので、4月の選挙と年度末の摺り寄せ相場でしょう。しかし2017年が好調すぎたので、4~12月までは落ち込んで当然です。

もし好調になるような政策を持ってくることができれば、今年以上に株価は上昇すると思いますが、新しい有効な政策が出ることは期待できないと思っています。

安倍首相自身は成長戦略が大切であることを認識していますが、政策の成果は出ていません。モノづくり大国を目指しても、家電は全部崩壊、原発もダメ、自動車もトヨタ以外は全部不祥事、ついでに自身の出身の神戸製鋼までも、大企業による不祥事が次々に発覚しています。

今年、順調との数字が出ている日本、本当の好況なら先行きも期待できますが、消費税増税を控えていますから、2019年秋には不況になることが確定しています。

しかし2019年に増税するなら、2018年は不景気のほうが相対的に2019年は好調になりますから、増税も決定しやすい意味で政権的には有利です。

不景気の見込みとなることが分かった2018年は、円高が107円で止まることはなく、100円割れも想定しておいたほうがよいでしょう。