「別の記事」でも解説しましたが、政策金利とは、各国の中央銀行が定める、市場金利の誘導目標です。

市場金利は、政策金利のとおりに動くようになっていますから、2つの金利の力関係を考えると、「政策金利>通常の金利」となります。

政策金利は、各国で毎月開かれる金融政策決定会合の結果以外では動きません。政策金利は、市場金利のように突然動くことはないのです。そして基本的に、金利が変わるときには事前に必ず告知されます。

近頃は、あまり金融政策決定会合が開かれたと聞きませんが、リーマンショック直後や東日本大震災直後などには、金利は動かさないとしてもドルを安定供給し、通貨の流動性を担保するために、金融緩和が行われました。

なお、東日本大震災のときに金利を動かさなかったのは、各国がほとんどゼロ金利だったので、動かしようがなかったという理由もあります。

今の日本やユーロの金利はゼロかマイナスなので、これ以上下げたくても下げられません。アメリカにしても1~1.25パーセントしかないため、下げたとしても効果はわずかしか出ないことになります。

一方の市場金利では、政策金利に対応するものは1年物の国債金利で、これが国の標準金利となります。1年よりも期間の長い国債は、その国のインフレ率やデフレ率によって、時間の経過とともに金利が上昇します。また1年よりも期間が短い国債の金利は、低下するように設定されています。

債券のトレーダーは経済指標に詳しい

債券のトレードとは、適切な金利を見つけ出すもの、ということにもなります。ただし金利の計算式は確立されていますので、あとは経済指標をどのように解釈するかの問題になります。

債券トレーダーは、経済指標を一番熟知しています。その結果、株やFXのように買い過ぎたり売り過ぎたりすることは、めったにないマーケットとなっています。

債券市場でトレードを行うための経済指標の解釈では、発表された現在の数字が重要なのではなく、その数字が将来どのように動くかを予想して、ポジションを確立します。

政策金利と市場金利の決定的な違いとは

政策金利と市場金利の決定的な違いは、金利のタイムスパンです。例えば、政策金利が1パーセントに決まったら、この数字は次回開催される金融政策決定会合の日までこのままです。

通常金利は1年に4回変わり、変わる幅も一定であるというイメージがあるかもしれません。

しかし1回の利上げ幅が0.25などと特に決まっているわけではありませんし、年4回という制約もありません。

極端に言うと、毎月、金融政策の決定会合を開いて毎月政策金利を上昇させたとしても、何ら問題ないのです。

一方で市場金利は、要するに国債の1年物金利のことですが、為替レート同様に刻々と変わります。さっきは1パーセントだったのに1秒後には2パーセントになることもあります。

FXでドルを買った場合、1秒前に買った人の金利は1パーセントですが、その1秒後に買った人は金利が2パーセントになります。適用金利が1パーセントと2パーセントでは大違いということは、みなさんもご存知だと思います。

例えばあなたのお金を銀行に預金する場合、A銀行の付与金利は1パーセントで、B銀行は2パーセントだったとすれば、みなさんB銀行に預けると思います。

しかし債券の場合は、買ったタイミングで付与金利が決定されますので選べない、違う時間に買うと違う金利が付与されるのです。

政策金利は一定期間変わらない金利です。市場金利は1秒ごとに変わる可能性がある金利です。マーケットではもちろん、全く違うものと考えたほうがよいですね。

市場金利の差が拡大すると、円安になる

「別の記事」で、「政策金利の差が拡大した場合、為替レートは円安になるのではなく円高になる」とのお話しをしましたが、これは現状の日本とアメリカの力関係の場合での話です。もし、日本の政策金利がアメリカ政策金利を超えて、上昇させる決定をしたときには当然、円安になります。

ポイントは、ドル円の場合の円高とは円の数字が小さくなる、円安とは円の数字が大きくなるということです。

文字表記どおりの常識で考えがちですが、円高円安の場合、実際数字は文字の意味とは逆であるので分かりづらいですね。混乱しないで覚えられるようにしましょう。

ところが、市場金利の場合、ドル円相場と債券相場の相関関係はというと、ドル円が円高になったときに債券の価格は上昇しています。債券の価格が上昇しているということは、金利は低下していることになります。

日銀が量的緩和をしていますので、円の金利はほぼほぼ動かないと仮定すると、金利差が縮小するときには本来、円安にならなければならないです。

まとめると、「政策金利の金利差が拡大すると、円高になる」のですが、「市場金利の金利差が拡大すると、円安になる」のです。

債券市場は規模が大きいので影響力がある

私個人は債券のトレード経験があまりありませんので、詳しいことは分かりませんが、だいたいの想像がつく範囲でお話ししましょう。

まず債券相場は、市場規模が大きいこともありますが、本当に理に適った動きしかしません。

このため債券市場にはバブルのような動きは一切ないといっても過言ではないでしょう。

債券市場では、1億円の資金があったとしても相手にならない小口トレーダーとみなされてしまいます。1ロット10億円、100億円なんてことも、全く珍しいことではありません。

FXで100億円のポジションを取ったとしたら、相場への影響は大きく、おそらくドル円のレートをいくらは動かす力になり得ると思います。

100億円の資金ですから1パーセントの損でも1億円の損失になります。そもそも一般トレーダーには縁のない話ですね。しかし債券のトレードはケタ違いです。

100億円のアメリカ債券を買うときには、ほかの何かを売ってヘッジをします。例えば、100億円の1年物債券を買う場合は、10年物の債券を反対に売ってヘッジをします。

一般的にはこういった取引を裁定取引やアービトラージと言います。これは日本国債の場合の主流のやり方です。

アメリカ債券が売買されるとき、リスクヘッジのドル円も動く

日本の債券ディーラーがアメリカ債券を買う場合、金利は低下します。価格は反対に上昇します。ところが「アメリカの」債券ですから、債券取引で儲けたとしても、為替で損をしたら元も子もないのです。

このため債券取引の為替変動のリスクヘッジとしては、為替を売る、円高方向にポジションを取ります。もし債券で損をしても、為替相場で利益を生み出せる方向に調整するのです。普段債券ディーラーがこういったことをよく行うため、債券の動きと為替の動きは逆になります。

なおアメリカに投資する場合は、債券に限らず株や商品もドル建てであるため、トレーダーは為替でリスクヘッジをします。

このため、債券の動きだけで為替が動くわけではないのですが、債券相場の規模が株や商品のマーケットよりも格段に大きいので、債券に動かされているように錯覚してしまうのです。

債券トレーダーがこの100億円のポジションを手仕舞いするときには、ヘッジのための為替のポジションも閉じますので、相関しているような動きに見えるのです。つまり本来の金利の動きと債券の動き、為替の動きはテクニカル的な要素で動いているだけで、最終的に金利差の拡大は円高になります。

債券トレーダー100億円のポジションを保有して為替レートが反対方向に動いたとすると、この100億円のポジションが手仕舞いされた場合には、為替は2倍の動きになるのです。

つまり、ゆがめられた為替レートになるのですから、これを正常に戻すためには2倍の値動きがないと、あるべき為替レートにならないことになります。

金利が拡大とともに、為替レートが大きく動いたようなに見えますので、自称専門家の素人アナリストなどがテレビで、金利差拡大で円安になったと騒ぎ、一般トレーダーも信じてしまいます。

日本銀行の関係者さえもこのような解説をすることがありますが、実際には本来とは違う動きをしているときですから、このようなときには逆に、絶好の仕込み場です。

ドル円が怒涛のように動く日が近い?

アメリカの景気は好調なのに、FRBも市場も、金利が不当に低く抑えられているということで、不満が噴出しています。

債券トレーダーは、これまで価格上昇ポジションを抱えているのですが、この金利が上昇をし始めるときには、ポジションを手仕舞うでしょう。これは債券を新規に売ることになりますから、ドル円も怒涛のように動くことになると思います。

そのうえFRBは、今年の10月からQEを停止しているのですから、債券の流動性はどんどん大きくなっていくと思いますし、VIX指数なども上昇は間違いないと思います。

金融庁によるFXレバレッジ規制にも関係がある

日本の金融庁によるレバレッジ規制の強化は、こういったFXの値幅が大きくなる事態が近づいていることも見越しているからこそ、規制の話を進めたがる傾向になっているのです。

そもそも、国際基準のレバレッジが10~15倍ですから、日本のレバレッジが25倍というのは、大きすぎるのです。証券の世界での信用、先物取引では、レバレッジは10倍が普通です。ビットコインのレバレッジを15倍にしたことなど、金融庁は失敗したと思っているはずです。

いずれにしても、為替相場が金利差拡大によって円安になるということは、次は倍返しがあるよ、という意味であること、覚えておきましょう。自称専門家の方たちが、このことで騒ぎ始めたら、逆張りをしておけばよいと思います。