「日米の金利差が開くと、円安が進行する」これは、テレビやマスコミで解説する専門家や日銀の方の人たちが語っていることです。実は、正しくないこのお話を、今回は論理的に考えてみたいと思います。

まずはユーロドルのレートを考察

ユーロとドルを例にしたいと思います。ユーロ圏とアメリカの経済格差が0.88倍であることは、「別の記事」で解説しました。経済格差とは「ユーロGDP総額÷アメリカGDP総額」の値です。

このことから本来、1ユーロの適正レートは「0.88ドル」ということになるのですが、実際の為替レートは、現在1.18ドルくらいです。

為替レートの強弱は「ユーロ>ドル」で、実際のGDPの高低は「アメリカ>ユーロ」であることになりますが、なぜこうなるのかには理由があります。

ここまであれこれ解説してきたとおり、GDPは名目でドル建てで計算されるものであるからです。2015年からユーロは暴落して、1ユーロ1ドルのパリティーを割れるかどうか議論になりました。しかし割れませんでした。

通貨ユーロの下落があったことで、ドル建て表示のユーロ圏のGDPは下がりましたが、実際の経済動向としては「ユーロ>アメリカ」であるとマーケットが推定していると考えられます。だから通貨も「ユーロ>ドル」の強弱を維持しているのです。

ロジカルに考えると、今年は「12パーセント」が鍵

これがロジカルな考え方です。なぜロジカルかというと、ユーロドルは今年、12パーセント上昇しているのです。

「12パーセント」この数字は重要です。「今年の基準値は1ユーロ0.88ドルになる」の根拠も、パリティーである1から12パーセント下がった数字です。

逆に12パーセント上昇している現状は、どんな理由から来るのだろう、と思ませんか。

ここで少し円の話をすると、2017年年末の相場は、ユーロの上昇に対して円高になっており、そのパーセンテージは3パーセント程度。この数字をさらに分析するために割ったり掛けたりすると必ず、「12~13パーセント」という数字が出ます。

今年の相場のキーワードは「12~13パーセント」なのでしょう。

同じ数字が出ることは偶然なのではなく、為替相場はみなさんが思うほど不可解な動きは実はしておらず、極めてロジカルに動いていることになると思います。

自動売買は信用しすぎるべからず

売買比率などAIによる自動売買システムがこれだけ普及した現在、システムの根底になっている考え方や計算式があるはずで、それによって算出される値が存在するからこのような数字になるのだろうと思います。

ただし、たいていの自動売買システムは長くて5年程度、主流は3年程度のデータしか蓄積していませんので、突発的な景況感の変化や大事件、事故が起こった場合、また人為的な政策変更が起こった場合の、急激なトレンドの変化には対応できないと思います。

リーマンショック直後に、為替相場では南アフリカランドの暴落、株式市場ではアメリカのP&G株の急落などありました。これらもHFTやAIの誤作動の典型です。来年もこのような場面があるかもしれません、より一層の警戒が必要になるでしょう。

どうしても、参考にするデータの蓄積量が少ないと、対処方法が考えられておらず対応できなくて、間違いが必ず起こることになると思います。

その間違いが起こるタイミングが事前に分かれば、しばらく遊んで暮らすことができるのに、とは思います。誰でも一度は思うことですよね。

専門家の話も信用しすぎるべからず

なお、自動売買だけでなく、特定の「専門家」が強く勧める情報も、信用してよいのかどうかよく考えて利用しましょう。

不安定な値動きのトルコリラなど、大きく儲けたという専門家がいて、スワップ目当てのトレーダーには相変わらず人気です。しかし来年は、新興国のスワップで稼ぐのではなく、先進国のスワップで稼ぐことが主流になると思います。

新興国の金利が高い理由は、経済成長率が高いからではなく、暴落するリスクが高いからなのです。しかしそのことに気づいていないから、リスクの恐怖を感じずに保有している方が多いのですよね。

会員を募って登録料などを取り、情報提供と称して危険な取引を安易に勧める専門家は無責任だと思います。

トルコ円などは南アフリカ円以上に板が薄いのですから、コンピュータによるアルゴリズム取引が全部売り指令をしたら大急落で、大損害になるリスクを常に抱えています。

このような可能性まで考えると、トルコの買い推奨なんてことは私には言えません。儲け話は、リスクの説明はなく良い面ばかり強調されているものですから、常に裏があると疑ってかかることも大切です。

新興国で比較的暴落リスクの低い国は?

金融先物取引所に上場されたメキシコなどは、今後も経済成長を続く見込みですが、アメリカとの関係のトランプリスクがありますので、なんともいえません。

少なくともスワップ金利目的で保有するとしたら、メキシコのほうがリスクは少ないと思います。メキシコはトルコよりも経済的には上だからです。

南アフリカもリスクがある国ですが、人種問題への経済援助が充実していますので、トルコよりは心配は少ないと言えます。

ブラジルは、そもそも国家に徴税能力がありませんから、国は富んでも財政はボロボロ、ある意味ギリシャと一緒です。21世紀になって先進国に近づいてきたとしても、あれほど徴税能力がひどい国はありません。

おそらく南アフリカやトルコのほうがもっと徴税能力は低いと思いますが、ブラジルの場合、あの国土の広さで納税の意識が薄いとは致命的だと思います。

また、普通、税金を払わないのはあまり裕福ではない人たちなのですが、あの国は金持ちが率先をして税金を払わないのです。国の信用の根幹は徴税能力ですから、その能力に疑問がある国には投資できません。

徴税能力が高く、信用される国

日本の場合、これだけ借金があるにもかかわらず、他国から信用されている理由は、徴税能力が卓越していることにあります。

日本は、脱税した際の罪が軽い国です。中国や韓国では、脱税をしたら最高で死刑までありますが、日本はかなり高額の脱税でないと逮捕されるまでには至りません。

そして、逮捕されても何年かすれば塀の外に出られます。脱税が発覚したら課徴金を支払うだけでたいていの場合は済みます。

裏を返せば、それだけ徴税能力が高いのです。そして徴税能力が高いから、外国からも信用されています。

電子マネーや仮想通貨は脱税対策

北欧の国々はキャッシュレスの世界的先進国で、ノルウェーなどは現金を利用する人が10%以下と言われています。クレジットカードや電子マネーで決済すると必ずどこかに記録が残りますので、脱税などほぼ不可能になるでしょう。

仮想通貨も同様です。中国にはビットコインなどではない人民元の仮想通貨構想もあります。今後は中国の徴税能力も上昇することでしょう。

日本でも、仮想通貨が財産権に組み入れられました。これも徴税能力を高めるための目的があります。なお日本円のキャッシュレス化は、1990年代から日本銀行によって極秘に研究が始まっています。

ビットコインの普及によって、ようやくこの研究のことが明らかになりましたが、日本のキャッシュレス構想も、歴史は決して浅いものではありません。

信用して投資してよいかどうかの測り方

国の信用とは徴税能力に基づくものです。またGDPが高いのに国家予算が少ない、組めない国は、徴税能力がないことを意味します。

新興国に投資する場合はこの点について調べると、投資するべきか否かはすぐに分かると思います。参考までに日本のGDPは540兆円で、国家予算は100兆円弱、税収は80兆円です。残りは赤字国債です。

つまりGDPに対して、13パーセント程度の予算を組んでいます。この値が高いか低いかには議論の余地がありますが、いわば妥当と言える水準です。また徹底的に徴税したら、税収は100兆円くらいになると思います。

FXのファンダメンタルズを勉強するなら、GDPの数字によって通貨の価値が左右されるものであるということは、常識として覚えておきたいものです。

GDP、国の通貨、国家予算、徴税能力、これらの結び付きの理解も大切です。

そもそも徴税能力のない国は国家予算が組めないのと同義であり、お金がない政府は信用できない国、そしてその通貨は紙切れ同然です。現在のトルコリラはこれに限りなく近い通貨なのです。国に信用がないからお金も価値も低く、信用がないから金利が高いのです。

こんなことも分からないまま、安易に推奨している専門家がいることには危機感を覚えます。

通貨の適正レートについて考える

だいぶ話がそれましたが、国に徴税能力があるから通貨の信用度も増す、その代表例が日本円です。これだけ借金があっても徴税能力が高い、その徴税能力が担保されて初めてGDPの比較に入ることができます。

そしてそのGDPを比較して、通貨の価値の比較をします。ユーロとドルの場合は、ドルのGDP総額に0.88を掛けると、ユーロの適切なレートが出ます。

つまり、1ユーロ0.88ドルが適正なはずですが、現状のユーロはそれ以上に買われているから、その理由を考える。

その理由を加味して考えると、現在のより適正な価格が分かります。ユーロドルの場合は、2016年に大きく売られ、その結果ドル建てのユーロ圏GDP総額が下がったのだと分かります。

実質GDPにするとユーロの経済規模のほうが大きいから、適正レートよりも高くなっていると類推する、そこから、その基準値は移動平均線と考えると、最大何パーセントの乖離の可能性があるか分かります。

基準値よりも上に行っているなら経済は拡大傾向にあると判断でき、基準値より下の場合は経済は縮小していると判断すればいいのです。

経済が拡大している場合には基準値以下に売られる可能性は非常に小さく、基準値が安値になると判断できます。

この方法で私は2014年から安値をピタリと当てることができているのです。高値についても、乖離がどのぐらいになるかはテクニカルの経験からわかりますので、上値の予想もできます。

来年の相場の上限や下限まで予想できる

しかし日本円に関しては、基準値から大きく離れています。現状のドル円の基準値は90円程度で、来年はもっと円高になることがほぼ確定しています。

来年の円安のレベルは、今年の年初の118円の円安以上に円安に動く可能性はほぼない、と断言できます。円高のレベルは、今年の高値の107円はらくらく下回ると思います。

今年は上ぶれが大きかったですが、来年は下振れの乖離のほうが大きくなると思います。

以上はあくまでも現状の見通しからすれば、ですが、このように2017年末に2018年の予想を断言できる人はほぼいないと思います。そして予想を間違えたとしても、為替レートが何で動いているのかは理解していれば、修正は簡単にできるのです。

だから、みなさんにもファンダメンタルズの勉強をお勧めするのです。日本経済が円安になるのは政策効果か、もしくは単なるマグレなのかをきちんと理解する必要があると思います。

ここまで読み進めたみなさんは、テクニカルよりもファンダメンタルズのほうが、予測性能は高いとお分かりかと思います。為替や株などの金融マーケットの価格決定権は、ほとんど政府の政策だということも理解できたと思います。

金利が変動したときの為替レート変化の具体例

さて、だいぶ話は遠回りをしましたが、金利差によって発生する為替レートの動きについて、実際のユーロドルではなく、架空の通貨と仮定して考えてみたいと思います。

A通貨とB通貨という設定にします。5Aと10Bが等価格とします。表記は、5A=10Bとします。

これを通貨の「1ドル=360円」のように表記すると「1A=2B」になります。

市場金利がどちらの通貨も10パーセント上昇したとすれば「1.1A=2.2B」になりますね。これを分数で簡潔な数字にすると1.1A/2.2B=1A:2Bになります。

つまり通常は2通貨の金利が同じ幅上昇しても、金利差による為替レート変動はないことになります。

一方、これが例えばAが10パーセントの金利上昇で、Bが据え置きだった場合は、「1.1A=2B」になります。為替レートとして表すと「1A=1.81818B」になります。

つまり一方だけが10パーセントの金利拡大をした場合、為替レートで表すと、対する通貨Bは約10パーセント切り下がったことになります。

肝心なことは10パーセントの金利が拡大した場合、対する通貨の為替変動は10パーセント上がるのではなく下がるということです。

ここまでの話を実在の通貨ペアにしてみましょう。Aをドル、Bを円にした場合、アメリカ市場の金利が10パーセント上昇して、日本市場が変わらないと考えます。円の場合は、「価格が下がるとは円高の意味」であること、忘れないでくださいね。

Aをドル、Bをユーロと考えた場合、金利差ないときは1ドル=2ユーロ。
ドルの金利が10パーセント切りあがって、ユーロの金利が変わらない場合、1ドル=1.81818ユーロになります。

このとき、ユーロドルなどの場合は「通貨の切り下がり」と言いますね。でも日本円の場合は「円高」だから「通貨の切り上がり」になるのです。

明確になったでしょうか?しかし専門家や日銀の幹部もアナリストも、「金利拡大すると円安」と言います。またテレビで聞くと混乱するかもしれませんが、あなたの頭の中ではしっかり「金利拡大すると円高」と理解しておいてください。

私がよく取り上げる公式「アメリカ>日本は、円高」「アメリカ<日本は、円安」の意味もお分かりになったでしょうか?

GDPからドル円の適正レートを算出すると

GDPを使って計算する場合、2017年7~9月期のアメリカGDP前期比、名目値は3.2、日本は0.6で、アメリカ3.2>日本0.6です。

「3.2アメリカ=0.6日本」の数字を「1アメリカ=」にすると、日本は0.1875になります。

なおこの数字が直接為替相場の適正レートなのではなく、為替レートはGDPで計算することになるため、この数字にGDPを掛けます。

日本は540兆円と仮定すると、「1アメリカ=101.25日本」です。

これが基準値になりますが、現在のドル円は110~113円近辺で、基準値よりかなり円安です。

なお仮に今年1~6月期に日本が2パーセント成長をしているとすれば、数字は540×1.02=550.8兆円になります。この550.8兆円にさきほどの0.25を掛けると「103.275」になります。

別の記事」でドル円の基準値の求め方を計算しましたが、その数字と大差がないということが分かると思います。

なおこのGDPを用いた計算はざっくりした予想であることは覚えておいてください。大事なことは、金利差が拡大すると円安なんてことはなく、実は円高になるということです。

FRBが利上げを決定し、アメリカの金利が0.25上昇をしたとき、日本の金利は据え置きなのですから、円安にはならずに円高になるのです。

実際のFOMC発表値を見ながら具体的に解説すると

FOMCの発表は、12月13日28時で、そのときのレートは113.5です。アメリカの政策金利は1.0~1.25で、日本は0です。

単純に考えれば、その変化率は1.0~1.25になりますので、113.5×(0.99-0.985)=112.365~111.79がFOMC決定後の適正なレートになるのです。

これを書いているのが12月15日22時くらいで、それまでの安値は112.03ですから111.79にはまだ届いていませんが、112円の前半で推移をしています。日本の企業物価が前月比で0.3ほど上昇していることを考えると、この辺が目先の底になるのかな、と思います。

こういうことは日々コラムで書かなければいけないのですが、ここで書いてしまいました。

「日本>アメリカ」のときはそうはならない

なお、みなさんは金利差が拡大して、円安になるケースがあることにも気付いていますよね?

それは言うまでもなく「日本>アメリカ」の場合です。

たとえば、1ドル100円で円金利が2パーセント上昇、アメリカが変わらない状況の場合には1ドル102円になります。

2パーセントの金利拡大ですが、「アメリカ>日本」ではなく、「日本>アメリカ」なので、円高ではなく円安になるのです。

このように、いろいろなケースを想定して自分で勘定できるようになると、円安、円高の方向性もたいてい分かるものなのです。クロス円だけでなく、どの通貨ペアでも考え方は同じです。