「世界の景気がよければ貿易が活発になり」「貿易が活発になれば品物の運搬に使われる船の需要が高まり船賃も上がる」というのが一般的な考え方だと思います。

実際のところ世界の景気がよくなっている国では、貿易も活発です。例えば中国やドイツ、韓国などは、貿易への依存度が50パーセントを超えており、まさしく「貿易立国」といえます。

一方、日本の貿易は、GDPの割合の約15パーセント程度にとどまっています。私達は「日本は貿易立国である」と教育されてきたはずですが、そのわりには少なめの割合ですね。

日本の貿易は、外国から資源を輸入し、製品に加工をして輸出する「加工貿易」が主になっています。これが日本の成長戦略である「ものづくり大国」という言葉にもなりました。

しかし上記のように、他国の実態と比べると日本は貿易立国と言えるようなレベルではないことが分かります。

貿易を推奨するも輸出量は重視していない

政府は、成長戦略として円安と活発な貿易を促しています。これによって何がよくなるのでしょうか?貿易が増えると、結果として日本のGDPが飛躍的に増大することになります。

政府の至上命題は、日本の実質GDPを上げることです。なおこの実質GDP、日本は他国よりも為替レートの影響を強く受けます。その理由はこのあとに述べますが、手っ取り早くGDPを増額したいなら「輸出を多くして外貨をたくさん得ればよい」のです。

外貨を得ることが目的ですから、アベノミクスでやっている円安からの輸出増大で求める実績としては、輸出量ではなく輸出金額の増大、そして円安の拡大となることをより重要視しています。

この事情の理解が抜けたまま、「貿易の金額ばかりが増えて量が増えていない。だからアベノミクスは失敗だ」と言う方は、論点がずれてしまっていることになりますね。

確かに、輸出金額だけでなく輸出量も増えれば、日本の経済へ劇的な効果があります。日本経済の発展にもつながることです。

よいことであり大変重要なことではあるのですが、安倍政権が狙っているのは「実質GDPの増大」だけであって、輸出量の増大ではないのです。アベノミクスを語る際にはご注意ください。

貿易をすれば日本のGDPが上がるカラクリは為替

「クロス円通貨」と呼ばれるドル円をはじめとした「他国の通貨 対 日本円」の通貨ペアの表示を見ていて、「他国通貨 対 他国通貨」の通貨ペアのレートと倍率が大きく違うことに気づいている方も多いでしょう。

例えばユーロドル「1ユーロが1.2ドル」であれば、その倍率は「1.2倍」です。これがクロス円の場合、例えばドル円「1ドルが110円」の倍率は、110倍にもなります。

このことは、実質GDPの数字において日本に非常に有利になります。円安になったとき、日本円単体では何も効果が感じられません。

しかし、ドル建てにすると、ユーロ圏では外貨を獲得したとき1.2倍の効果しかないところが、日本は110倍の効果があることになるのです。政府が積極的に推進するのも当然のことですね。

貿易の効果は、学校でも教えられてきた

私達は、学校の授業の中でも日本と世界の国々との貿易について学んできました。

古くは聖徳大使の時代の遣隋使や遣唐使。10世紀末~12世紀の日宋貿易、15世紀の日明貿易。信長の時代のキリスト教、種子島への鉄砲伝播、明治維新など。

学校のカリキュラムとして、貿易に関する授業にはかなりの時間が割かれています。

私達は「他国との交易は、お互いの国を活性化させ経済成長を促す。つまり貿易の拡大は重要である」ということを、歴史の時間にも勉強していたのですね。

バルチック海運指数について

さて、ファンダメンタルズ分析に出てくる用語「バルチック海運指数」とは何か、ご存知でしょうか。

「バルチック海運指数」は、BDI(Baltic Dry Index)とも呼ばれており、ロンドンにあるバルチック海運取引所が毎営業日に発表する指数です。

石炭・鉄鉱石・穀物といった乾貨物(ドライカーゴ)を運搬する、スポット契約の外航ばら積み船の運賃や利用料(傭船料、用船料)を聞き取り調査し、総合的に指数化したものです。また、バルチック海運指数は「海運株との連動性も高い」と言われています。

なぜスポット契約の傭船料金しか指数化しないのかというと、長期契約の利用料では契約内容次第となるため、企業側のさまざまな事情をうまく反映できないからではないかといわれています。

船のサイズ別の指標も発表される

指数は船の大きさに準じて発表されており、一番小さい船の指標はパナマックス(BPI: Baltic Panamax Index)と言います。これはパナマ運河を通れる船のサイズのことです。

また、大きい船の指標のことをケープサイズ(BCI: Baltic Capesize Index)といいます。

これは南アフリカのケープタウンにある喜望峰を経由しないと航行ができない船のことで、パナマ運河やスエズ運河を通ることができないほど大きい船、という意味になります。

こういった様々なサイズの船の指数を総合したものがBDI、バルチック海運指数です。よく市場では「かいうん、かいうん」との声が聞こえますが、この「かいうん」とは総合的なバルチック海運指数を指していることが多いです。

なお、バルチック海運取引所のサイトでは、有料会員しか詳しい指数を見ることができないのですが、無料で見られる以下のような経済サイトも多数存在します。このようなサイトを参考にしてみてください。

バルチック海運指数が見られるサイトの例 ⇒ Baltic Exchange Dry Index

貿易の拡大が世界経済成長を促す

世界の貿易量は、2015年ぐらいまでかなり停滞していましたが、2016年前後から回復をしてきています。これは、サミットなどで保護貿易の反対、自由貿易の促進が謳われてきた影響も大きいと思います。

もっと視野を広げて考えてみましょう。2008年のリーマンショック直後から2015年前後まで、貿易だけでなく世界全体の景気が停滞していました。

しかし2016年以降、貿易が拡大することによって「世界経済は3パーセント以上の成長」をすることになり、それに従い景気も上向きになっていきました。

つまり、貿易の出来、不出来が世界の経済成長に繋がり、大きな影響を与えているのです。

貿易を促すための協定の整備と話し合い

世界経済はここ数年、毎年3パーセント程度成長をしています。しかし世界の景気はさらなる拡大が必要です。そして拡大するには、貿易が必要なのです。

「TPP」「WTO」二国間交渉などが行われている理由は、貿易をたくさんするため、そして貿易によって各国の経済成長がより加速することを期待するからです。

世界の貿易量の増大は、世界の経済成長に大きく寄与します。このため毎年G20サミット、主要国と新興国20ヵ国の首脳が集まる国際会議においても、貿易ルールについて話し合いが行われています。

貿易に反対する大統領は世界から嫌われる

と、ここまで書けば、アメリカのトランプ大統領がなぜ、世界からこれほど嫌われるのかの理由も分かるでしょう。彼は「TPP」や「FTA」など、世界中で自由貿易が拡大されることに反対しまくっているから嫌われるのです。

リーマンショックの傷も癒えて、「さあ、これから」というときにアメリカ大統領が、アメリカの利益を優先すると言い出し、世界の自由貿易協定に反対をしました。

彼が反対したことで何も決まらず、貿易を始められない。

世界の首脳たちが彼に腹を立てるのも当然ですよね。

この先トランプ大統領が貿易協定の自由化を認めれば、世界的にさらなる大きな経済成長を期待できることになると思います。

バルチック海運指数と景気の関係

「バルチック海運指数」と「景気の関係」はどのようになっているのでしょうか。例えばリーマンショック前には、好景気であったにもかかわらず、この指数は世界的に大きく下落しました。

この理由は、計画経済を行っている中国が「船を作りすぎてしまったから」と言われています。需要を超過する数の船を、市場に供給してしまったことが原因です。

船の寿命は、一般的に20-30年と言われます。需要と供給のバランスが崩れると数値が動く結果になるのは、指数も為替も同様ですね。

この先、バルチック海運指数が新値を更新するようなことになれば、本当に世界の景気がよくなるという「ファンダメンタルズの先行指標」となることでしょう。バルチック海運指数には是非注目をしてみてください。