一口に「GDP」といってもいろいろな種類があります。

「実質GDP」「名目GDP 」また「GDPデフレーター」なども聞いたことがあると思います。

このうち「実質GDP」と「名目GDP」は為替の基準値を計算するときに非常に大事なものです。ファンダメンタルズ分析には頻出する言葉ですので、ぜひ正しく理解しておきたいものです。

今回は、GDPを分析に使う際に注意したいことについてのお話しをしたいと思います。

GDPリストは国の経済力ランキング

ユーロドルの基準値を計算する際、私は以前からウィキペディアの数字を引用しています。このサイトの数字は「名目GDP」であることがはっきりしているからです。

参考サイト: 「国の国内総生産順リスト (為替レート)」

この表は、国の経済力のランキングです。1位は「アメリカ」「欧州連合」が並んで表記されていて、2位が中国。そして3位が日本、4位がドイツと続くことになりますが、金額差からもこの先10年は1-4位の国の順位が変わることはないでしょう。

これは、「ユーロ経済圏の将来性を話題にした記事」でも話題にしていますが、ユーロ経済圏が結成された表向きの理由は、池上彰さんの番組や学校の義務教育で勉強したように、「悲惨な戦争を二度と繰り返さないように、他民族国家であるユーロ圏を統一させよう」ということからです。

そして裏の理由は、「かつてアメリカをしのぐ経済圏だったヨーロッパが、第二次世界大戦以降にアメリカに主役の座を奪われてしまった。その地位を再び奪還するため」です。この思惑により結成された同一通貨の経済圏がユーロ、EUです。

アメリカ以上の経済力を持つのが目的でしたから、GDP総額ではユーロがアメリカ以上の経済力を保持していなければなりません。アメリカに抜かれているようでは、ヨーロッパ各国が結束する理由などないのです。

結局どっちが1位?決められていない理由は

表の数字は異なるにもかかわらず1位の欄にアメリカと欧州連合が並んでいる理由は、この数字を算出するための「通貨レートの選択」が理由です。ユーロで換算するのとドルで換算するのとでは、数字が変わって順位が入れ替わるのです。

例えば日本のこととして考えてみましょう。日本のGDP総額は540兆円、表記の単位は「円」です。この金額をドルに換算して発表するにあたっては、そのときのドル円レートで換算することになります。

・1ドル100円のときの540兆円は(540兆÷100=)5兆4千ドル
・1ドル110円のときの540兆円は(540兆÷110=)4兆9千ドル

日本円の金額は変わらなくても、円安のタイミングのときに発表するだけで、日本のドル建てGDPは低くなってしまいます。

GDPに関しては円高のときのほうがより、いわば「見栄えがよくなる」わけです。どの国のGDPについても同様のことが言えます。

基軸通貨がドルであるため、世界のGDPの発表は一般的にドルで表されます。ここ数年は、ユーロ経済圏の数字のほうがアメリカよりも低くなっていますが、これはドル建てであることが理由で、ユーロ安であったからです。

これを、ユーロ経済圏とアメリカどちらのGDPもユーロ建てで表してみれば、アメリカよりもユーロ経済圏の方が高くなります。これでユーロ経済圏的にも「アメリカを抜いているからOK」ということになるのでしょう。

GDPでユーロが1位になればユーロドルが上昇する

現在、ユーロドル相場が上昇をしています。2017年から2018年にかけてユーロが劇的な買いに変化をすると予測されているのは、今のユーロ高、ドル安相場が来年も続きそうであるからです。

ユーロ高になれば、2017年の国別の経済力ランキングは、ユーロ建てに計算しなおさなくてもユーロ経済圏が1位になりアメリカが2位になるでしょう。

そうなればマーケット関係者が「現在の水準ではユーロが安く推移している」と読むのも当然の話です。2018年はユーロ買いで臨むべきだと思います。

現状ユーロドル相場は「1.1~1.2」で推移をしていますが、長期的な目線で見るとおそらく「1.4~1.5」になるであろうと簡単に予測がつきます。

なお現在ユーロが2位であるのであれば、現在のユーロドルの水準は割高です。本来はパリティーである1.0を割り込んで0.9以下で推移をしていなくてはならないはずです。

しかし来年を見越した場合、ユーロのパリティー割れとは割安すぎる水準であり、現在の水準でもまだまだ割安と言えます。

「実質GDP」と「名目GDP」の重要となる考え方

「実質金利」と「名目金利」という経済指標もありますので、先にこちらで説明しましょう。

金利の場合の実質金利とは、市場金利をそのまま表現をしたものです。一方で名目金利とは、物価上昇することを考慮して実質金利から物価上昇率を引いたものです。

例えば、実質金利が3パーセントだとして、そこに物価上昇率や消費者物価指数が2パーセント上昇していたとすると、名目金利とは3-2=1で「1%」ということになります。

GDPの「実質」と「名目」はこれとは少々異なります。

物価上昇が考慮されているとかされていないとかの違いは為替レートの変動と考える必要があります。

まず「実質GDPは自国通貨建てGDP総額」になります。

そして「名目GDPはドル建てGDP総額」のことです。

実際の数字に置き換えてみましょう。「日本のGDP 540兆円」これは実質GDPのことであって、ドル建ての「日本のGDP 4兆9千ドル」は名目GDPです。実質GDPに「1ドル110円」の円安レートを反映させていることになるからです。

なお、日本円だけで名目GDPを考える場合は、実質GDPに前年からの物価上昇率を考慮する計算が必要になります。

なおGDPはたいていの場合、年率か前期比で発表されます。しかし年率と前期比では月とすっぽんくらい意味が違うことはぜひ認識しておきましょう。通貨建てが異なる名目GDPと実質GDPの年率と前期比についても同様です。

名目GDPと実質GDPの単純な違いを書いている記事は他に見かけますが、ここまで詳細に解説しているサイトは残念ながら日本にはありません。ファンダメンタルズ分析を行ううえで重要な考え方ですので、是非覚えていただければ幸いです。