「雇用統計」FXをやっている方なら、比較的初心者の方でもみなさん知っているのではないでしょうか。

雇用統計は、アメリカ労働省から発表されるアメリカ国内の雇用状況に関する調査報告です。

毎月の第1金曜日の日本時間夜、ニューヨーク株式の本取引が寄り付く前に発表されます。発表前後に必ず大きく相場が動く経済指標として、月1回のイベントのようにもなっていますよね。

アメリカから出される経済指標はたくさんある中で、なぜこの雇用統計が極端に注目され重要視されるのでしょうか?

日本語のサイトではこれまで、こういった解説はほとんどされていなかったようです。理由を正しく理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。

雇用統計が注目される理由

雇用統計は「たくさんの人が注目するから重要」とだけ覚えている方がほとんどだと思います。

確かにそれはそうなのですが、なぜ注目されるのかの理由をもっと深く正しく知ることができれば、今後の投資にも役立つことになると思います。

毎月一番早く発表される政府の調査結果だから

雇用統計は、アメリカの政府機関である労働省から、先月の雇用の状況をまとめて「一番早く発表される」ものです。

なお消費者動向を分析するための指標としては、他に民間の調査機関やシンクタンクの調査結果である「ISM製造業指数」や「ミシガンサーベイ」などもあります。

これらの指標も速報性があり、指標としてかなりの重要な位置づけではあるのですが、雇用統計のほうが政府系の調査結果であるということ、そして一番早いということで、より重要視されるのです。

景況感の程度を感覚ではなく数字で把握できる

ISM製造業指数などは、景況感指数のアンケート調査です。ほとんどが「どう感じるか」という調査結果であるため、景気がいいといっても感覚的なものです。

具体的にどれぐらい景気が上昇をするのかまではわかりません。「ドルが上昇する」と見通しが出ても、具体的にどの程度上昇するかは分かりません。

これと比べて雇用統計は、先月のアメリカ経済の状況がどうなっているのか、ストレートに数字で分かる指標だから重要視されるのです。

景気動向を知ることができる大きな根拠がある

経済指標としての分類には、「政府」「企業」「家計」、そして「貿易」や「投資」などの項目があります。雇用統計はこの分類の中の「家計」、アメリカのGDPの70%という、最も大きな部分を占める消費者サイドの経済指標です。

「消費者の動向が分かれば、アメリカ経済の将来もある程度分かることになる」ため、世界中の投資家に注目されているのです。

それでは、将来の動向を知るための分析方法について考えてみましょう。

雇用統計の結果から、自分で予測GDPを計算できる

雇用統計ではさまざまな指標が同時に発表されています。例えば新規雇用者数や失業率、不完全雇用者数、平均時給、労働参加率などです。

これらの中で最も注目されているのは、「非農業部門新規雇用者数」です。

なぜ注目されるかの理由は非常に明確で、新たに人を雇うということは、新たにお給料が発生をすることを意味しますよね。GDPの数字にも直接関係があります。

雇用統計の結果の数字を使えば、アメリカのGDPを自分で計算することも可能です。

同時に発表される数字を組み合わせて、
例えば「新規雇用者数×平均時給×1日8時間労働×月20営業日」との計算をすれば、先月のデータからアメリカのGDPがいくら増えるか簡単に算出できるのです。

また失業率の分をGDPから減額するとすれば、失業率のパーセンテージに就業人口や生産人口を掛け合わせれば数字が出ます。

さらにこれにGDPの家計(消費者)の項目が70%占めることをかけ合わせれば、ほぼ正確なGDP合計も算出できることになるでしょう。

具体的な数字を使った例や分析のしかたの例

例えばアメリカの人口が3億人として、労働参加率が60%とすると、2億4000万人が労働に参加をしていることになります。失業率が0.1ポイント減った月は、失業した人が240万人減ったことになります。

「240万人×平均時給×1日8時間労働×月20営業日」は、失業率が0.1ポイント減った月に増える(雇用が増えたから)GDPの金額、と考えることができます。

また例えば平均時給が増額したとなれば、働き手の需給が高まっていると判断でき、景気が良くなっていることが分かります。

企業は設備投資をしてさらに儲けを図ることになるから株は買い、FXであれば「アメリカはもっと成長するからドル高になるだろう」などといった予想ができるのです。

このように、雇用統計のデータを活用して計算式に当てはめたり、各数値を比較してみたりすることで、アメリカの消費者サイドのさまざまな動向を知ることができます。

雇用統計の分析をするときの注意

速報値の新規雇用者数がいくらになるか、上がるか下がるか、だけでは雇用統計を理解して分析に活用しているとは言えません。

また、「新規雇用者数を重視するときは、毎週の失業保険申請者数も重要である」などという解説も見かけますが、現在の「失業率4パーセント前半」は、アメリカとしてはほぼ完全雇用に近い状態であり、転職需要から雇用する以外の新規雇用はないことになります。

失業をして職を探している人が少ないときに、「新規雇用者数」を重要視してもあまり意味がないことになるでしょう。それよりは、GDPを押し上げることになる平均時給の押し上げなどに注目したほうが効果的であると言えます。

好景気の目安「20万人の新規雇用」は現在には合わない

一番重要視されている「非農業部門新規雇用者数」の数字の見方も、目安として「アメリカの景気が良いときには、毎月20万人以上の新規雇用が発生する」というものがあります。

しかしこの「20万人」という数字を果たして現在も目安にしてよいのかどうかは疑問があります。みなさんもご存じのように、アメリカの人口は毎年増えています。

日本で問題になっているような少子高齢化ではなく、若者が増える典型的なピラミッド型の人口構成になっています。

ということは好況時には、雇用数は20万人どころではなくもっと多いはずなのです。

2000年前半には確かに「20万人」との基準は重要であったのでしょうけれど、人口構成が変わっている現在では、基準にできない数字なのではないでしょぅか。

雇用統計で盛り上がるのはちょっと違う?

雇用統計はGDPの額を予想できて活用度が大きい、非常に重要な経済指標です。

しかし本来の正しい見方が解説されていないことで、日本国内の投資家の間では、別の方向に盛り上がってしまっている感は否めません。

毎月、まるでお祭りのようにイベント化して、ギャンブルトレードをあおるような解説サイトや国内FX会社もあります。

しかしこの状況は、実際のファンダメンタルズ分析を考えると不自然です。本来で一番重要なのはその通貨を発行する国の信用力、つまりGDPが高いのか低いのかということです。

しかしGDP発表のときには相場はさほど盛り上がりません。

これはつまり、ほとんどの投資家がファンダメンタルズを理解していない、ということになるのでしょう。