「卸売物価指数」は、日本では「企業物価指数」と呼び名が変わり、日本銀行によって毎月1回公表されています。製造業者が工場や倉庫から商品を出荷する際の価格の上昇と下落をパーセンテージ表記したものです。

なお、世界のほとんどの国では「卸売物価指数」と呼ばれています。日本において「卸売」の言葉が「企業」に変わった理由は、商品流通の仕組みが時代の変化とともに変わったためです。

企業が仲介して商品が消費者の手元に届く

一般的に、商品が消費者の手元に届く際には「卸売業者」が生産者と小売店を仲介します。

「卸売物価指数」が誕生したころには、通販と言えばテレフォンショッピング程度の需要でしたが、現在はインターネット通販の浸透などにより、卸売業者を通さない直接販売の形態が世界的にも顕著になってきています。

例えば、近ごろスーパーやコンビニで「プライベートブランド」と呼ばれる自社企画商品が流行っています。

これらは、メーカーが製造した商品を小売店が直接買い取ることによって流通費や人件費、広告費を抑えた結果、商品の品質はそのままに低価格が実現した商品です。

日本では卸売業者が絶滅寸前になっています。

生産者から小売店が直接買い付けたり、生産者が直接消費者に販売したりする「直販」の割合が多くなったことから、「卸売物価」の名称では実態にはそぐわない、となり「企業物価」と改称し、指数の調査方法も変わりました。

卸売業者の代表格は事業転換を迫られている

日本で現存する卸売業者の代表格は、日本の独特な商売の形態である「商社」や、話題になっている築地の「卸売市場」などです。しかし野菜市場、魚市場、花き市場なども直販が主流になってきており、市場は縮小の運命を辿っています。

日本の商社が生き残っている理由は、卸売以外に海外で買い付けをした商品をヘッジするために、金融市場で売り注文を出すといった金融事業も行っているためです。

また「商社の川下戦略」という言葉、みなさんも聞いたことがあると思います。商社が大手の流通チェーンや小売店に出資し、商社の傘下として運営されているお店も多いのです。

例えばコンビニエンスストアはもともと、伊藤忠商事がイトーヨーカドーと組んで「セブンイレブン」を立ち上げた事業でした。また「ローソン」は三菱商事、「ファミリーマート」は丸紅といったように、皆商社の傘下になっています。

商社も、時代の流れによって従来の卸売の商売戦略を見直さなければならなくなり、コンビニ運営に進出したのです。

卸売代表格がこのように業態変更を行っていることもあり、日本の統計も「卸売物価」から「企業物価」に変更されました。

企業物価指数は物価指数の中で先行する傾向

ファンダメンタルズ分析のための「経済指標の分類」については別の記事で解説しましたが。

各種の物価指数は、「先行」「一致」「遅行」とあるうち「一致指数」に分類されます。つまり、景気の動向と一致した動きになることになります。

そして一致指数の中でも速い遅いのランク付けがあり、卸売物価や企業物価は店頭に販売される前の価格であることから、消費者物価よりは先行する傾向があります。

企業物価指数は消費者物価数と深いつながりがある

このことに注目すると、未来を予測(ファンダメンタルズ分析)ができることになります。

例えば現在の消費者物価指数が「1%」だったところに、企業物価指数が前年比で「3%」上昇したとすると、その半年後ぐらいには消費者物価指数も「3%」に上昇することになるのです。

もしもそうならない場合には、景気動向として経済がデフレ状態で、物価が下がっていると判断できます。

半年後の消費者物価指数とGDPまで予測できる

企業物価指数から半年後の消費者物価指数が予測できることは、将来のGDPの予想にも役立つことになります。

別の記事で解説した「消費者物価指数」は、別名インフレ指数とも呼ばれており、GDPの成長率とほぼ変わらない傾向があることが分かります。

これはたいへん重要なことなのですが、企業物価指数が最終的にGDPにつながっていることに注目する専門家は、非常に少ないです。

企業物価指数が重要指標であることに気づいたあなたは、専門家よりも早く物価動向を知り、GDPの予測までできることになるのです。

このような分析ができるなんて、他の人より優位なれること以外のなにものでもないでしょう。私がよく企業物価指数を引き合いに出す理由も、お分かりいただけたと思います。