「政策金利と市場金利の差のことを『クレジットスプレッド』という」と別の記事でご紹介しました。金利差の広がりの度合いによって、リスクの度合いを測るというのがクレジットスプレッドの概念です。

世界各国の、特に債券のトレーダーはこのクレジットスプレッドをいつも注視しています。「TED(テッド)スプレッド」と呼ばれる金利差も注視されています。

「TED」とは、3ヶ月物米短期国債「T-bill」と3ヶ月物ユーロドル「EuroDollar」であるLIBORの頭文字を取ったものです。

TEDスプレッドは世界の基準金利が元になっている

TEDスプレッドが注目されている理由は、「LIBOR」 が世界の基準金利であり、ロンドンで現地時間午前11時に発表されているからです。

ちなみにロンドン午前11時は日本時間では20時、サマータイムの間は19時です。LIBORは世界の基準金利として、アメリカ、アジア、オセアニアの基準金利にも影響するのです。

LIBORは、銀行間の無担保取引、つまりお互いの信頼関係だけお金を貸し付ける取引です。担保を取らないため、貸したお金が焦げ付いた場合その銀行は大損になりますが、その保険がロンドンで掛けられています。

ロンドンは全世界の再保険の中心地です。世界の銀行が資金調達のためにロンドンに集まり保険かける。保険は金融でいうとオプション取引にあたりますので、通貨先物、オプションのイギリスのシティーは世界の中心になっているという背景があります。

TEDスプレッドの概念は、前出のクレジットスプレッドと変わりません。

基準金利を元に金利が上下しリスク度合いが分かる

為替市場、FXはドルを基準に相場が上下動しますが、金利の場合はロンドン市場、もっと限定をするとLIBORを基準として上下動します。

ちなみに日本にも「クレジットスプレッド」の概念はありますが、日本の債券市場やスプレッド市場は日本銀行が国債金利、つまりは市場金利をコントロールしており、自然の流れで決まるものではなくなっています。

例えば日本国内で、地震や台風などの自然災害や北朝鮮との戦争など、日本経済を不安定化させる要因が起こった場合に、政策金利と市場金利の差が大きくなったとしても、日本銀行が債券の買い入れを行って、差が広がりすぎないように調整を行います。

本来であれば、突発的な事件や事故が発生した日本から、正確な情報が発信されるべきなのですが、このように日銀がコントロールしている状態では、クレジットスプレッドの広がりの度合いを見て不安要因の影響度の大きさ等を判断するようなこともできません。

日本の金利市場は機能不全に陥っていると言わざるを得ないのです。これでは銀行や金融機関の債券トレーダーも失業の憂き目にあって当然でしょう。

一方、世界最大の再保険市場のあるロンドンは、世界の基準金利としてLIBORがしっかりと機能しています。LIBORの日本向けの金利と日銀の金利差を見ることで、リスク度合いは分かることになります。

FXでも、日本円がよく分からない動きをしたとき、基軸通貨であるドルを見るとある程度判断の助けになることがあるのと同じです。

LIBOR不正操作事件とは

LIBORで数年前に金利の不正操作が発覚した事件を覚えている方も多いでしょう。

この事件は、LIBORの基準金利を提供する大手銀行10行のうち複数が、当局へ自ら有利な取引になるような不正な金利提示を行い、莫大な利益をあげたという事件です。

なお、取引相手の銀行や当局だけが被害者なのではなく、LIBORは世界の基準金利ですから、一般投資家にも被害があったことになります。

この事件が発覚したことをきっかけに、金利操作に加担をした銀行は莫大な違反金の支払いを科され、LIBORを発表する金融当局も、今後数字の不正が発生しないようにするためのさまざまな改革を行いました。

その結果LIBORは再び世界から信任を得て、TEDスプレッドも改めて信任を得たのです。

不正を罰して正す国と何もしない日本の違い

なお、LIBORを不正操作に加担した者たちは逮捕され投獄されているのに、日本の株式市場においては、粉飾決算や品質不正を行った企業に対して適切な罰則がなされていませんね。

この違いはなんでしょう?金利市場も同様で、気に入らない金利が提示されたら日本銀行がすかさず介入を行うような環境です。

不正を行った者に厳しく罰するシステムがない、政治、経済の状況。これが株式市場においても金利市場においても、日本が世界から信頼を失いかけている理由です。

そもそも市場に参加しようにも流動性が極端に減り、参入するのはヘッジする人だけになっています。

アメリカの年金ファンドなどは、「日本の株式市場は不透明すぎてフェアでないから、出資比率を減らす」と公言しているのですが、このような都合の悪いことは、日本国内には全く報道されません。

TEDスプレッドでリスク選好か回避かを判断

たいていのニュース報道されるリスク選好やリスク回避の判断基準には、このTEDスプレッドやクレジットスプレッドが使われています。

ニュースでスプレッドについての細かい解説がないのは、一般の方に説明をしても理解できないからしないだけです。みなさんにはリスク選好、回避の意味が理解できたでしょうか。

TEDスプレッドが急騰した事例

2016年にいきなりTEDスプレッドが急騰したことがありますが、これはスペインの地方銀行や大手銀行が債務不履行、つまり倒産危機にあったことが原因です。

その後、スペイン政府が銀行救済に乗り出したことで事なきをえましたが、その露骨な銀行保護に愛想をつかして発生したのが「カタルーニャ地方の独立問題」です。

スペイン政府は銀行や企業への保護が手厚すぎて、消費者にすべてのリスクを負わせているという、まさに「封建主義」そのものであることに反発している人たちが、独立運動を行っています。日本には、こういったことが全く報道されませんね。

これもマスコミに、詳細を伝えない忖度が働いているからなのでしょう。スペインの封建主義については、専門家の話さえ聞いたことがありません。いずれにしても、スペインの内乱状態は収まることはない状態にあるのです。