原油価格、GDP、インフレとデフレ、そして為替相場。これらの上下は、お互いが複雑に絡み合い深い関係にあるために起こっています。その関係性を理解するためのカギとなるのは原油価格であり、これについて知ることはとても重要です。

日々の生活の基盤となる「衣食住」が供給されている状況を考えてみても、その大元は原油や天然ガスなどの化石燃料がエネルギー源となって、衣、食、住にかかわるさまざまなモノを作り出しています。

今回は、原油価格が為替相場や経済、そして日々の消費者生活へ与える影響についてお話をしたいと思います。

世界一の原油生産国は?

日本が輸入している原油の大半は中東からで、そのことから中東が世界一原油を多く生産している地域だと思っている方がほとんどだと思います。しかし実際のところ、世界一の原油生産国は「アメリカ合衆国」です。参考までに天然ガスも同様です。ロシアではないのですね。

参照:外務省HP 【2017年】 1日あたり原油の生産量の多い国

近年シェールオイル、ガスが発見されたことによって、ここ数年で生産国の事情が大きく様変わりしました。生産量も消費量も今ではアメリカ合衆国がナンバー1です。

そして消費量のナンバー2は中国。ちなみにこの両国には、エネルギーの効率性が悪く無駄使いが多い共通点があり、そのせいで消費量も多くなっています。下記のデータからこの2カ国が圧倒的であり、3位のインド、4位の日本に大差をつけていることがわかります。

参照:外務省HP 【2017年】 1日あたり原油の消費量の多い国

なお、中国も以前は産油国の一つでした。義務教育のころに「大慶油田」について習った記憶がある方も多いと思います。しかしこの油田は近年産出量が減り、産油国とはもう言えない状態になっています。

また品質も極めて悪く、精製して灯油やガソリン、燃料などとして使うことはできずに重油専用なのです。例えば日本の新潟県でわずかにとれる原油、中国の産油力も現在はその程度と考えておくとよいでしょう。

原油の需給量は実は明確ではない

原油の価格を決めているのは需給量であると思われがちですが、実際のところはそうではありません。原油の需給量自体、そもそも明確ではないのです。

「日量〇バレル」と言われている中東の生産量が果たして正確なのかは分かりませんし、地球全体で原油の在庫がどのぐらいあるのかも不明瞭です。大半は輸送のために洋上をタンカーで移動していて、港で入荷待ちをしているものもあります。

またシェールオイルやオイルサンドのように新しい油田も次々発見されていますが、現代の技術でどこまで掘削可能なのか、掘削量や可掘可能年数は分からない状態なのです。

原油の価格は米ドルと密接な関係がある

供給過多になれば価格が下がる側面もありますが、原油の価格は実際のところ、ほとんど「米ドルの上下によって決定」しています。

米ドルが高くなれば原油は相対的に安くなり、反対にドルが安くなれば原油価格は上昇します。

 

オペックによる原油の協調減産は、為替介入することに等しい

原油価格の低迷とともに、オペック(産油国輸出機構)による原油の協調減産のニュースを耳にするようになりました。協調減産とは、産油国が話し合って原油の産出量を減らすことです。

国際的な流れで需給に合わせて原油安になったものの、原油からの収入によって国家財政が成り立っている国が多いため急落は困る、このため原油価格の下落のスピードを弱めるために協調減産を行うのです。

これはいわば、日本政府が為替に対して「ドル買い円売り介入」を行うことと同じです。

円高は国際的な流れで需給に合わせたものですから、それは容認できないけれど仕方ない、しかし急激な円高は国内経済の不安定要因になります。

日銀や政府はドル安円高のスピードを弱めるためにドル買い円売り介入をします。

中東の産油国は原油価格の下落を予期し、行動を起こしている

なお、為替介入があったとしても結局円高が進む結果になることと同様に、オペックによる原油の協調減産は「原油価格はこの先、下がる」と言っているのと等しいです。

また最近は中東情勢がかなり緊迫していますが、これには協調減産によって原油の価格が下がる見込みがあることも原因のひとつとなっています。

中東が不安定になるということは、中東の産油国はもうすでに原油の値下がりを予想しているのです。にもかかわらず日本では「オペックの協調減産があったから、買い」と解説をする方が多いですね。

世界の株式市場では、サウジアラビアの国営会社アラムコの新規株式公開が実現するかどうかの行方に注目が集まっています。上場先はニューヨーク証券取引所など世界の主要取引所複数が検討されています。

これまで国王の所有物であったアラムコが、株式会社のような形に移行し一般に株式公開する決断に至った背景には、これまでのような原油にだけ依存する国家財政ではなく、株式を売ったお金でサウジアラビアの財政を安定させ、都市化、近代化をしていきたい目的があります。

決して彼らが貧乏になったからではありません。むしろ、将来貧乏になるかもしれないと予想しそれに備えて上場しようとしているのです。

原油消費国である日本はこれとは逆の予想をし、経済産業省が筆頭となってアラムコを東京証券取引所に上場させようと誘致合戦に躍起になっています。将来貧乏になる可能性のある会社の株を買わせようとでもしているのでしょうか。

原油価格の下落があった過去には何が起きていたか

過去にも原油ショックはありました。そのとき一時的に儲けてしまったソ連はアフガニスタンに侵攻し、原油の財産がなくなったたことで国が崩壊してしまいました。

紛争

また「フォークランド紛争」は、周辺海域に原油が出る島の領有を巡って起こったイギリスとアルゼンチンの争いですが、その後アルゼンチン経済は、極度のハイパーインフレが発生し債務不履行(デフォルト)という大混乱に陥りました。

2010年後半から2013年初めにかけて原油価格が乱高下する原因となったと言われる「アラブの春」では、チュニジアでの抗議デモが発端となり、中東・北アフリカ地域で反政府運動が拡大しました。このときの値動きが記憶に残っている方も多いと思います。

さて、なぜ原油価格が経済に影響するのか?

GDPの数字と直結する関係にある「消費者物価指数」これを詳細に眺めると、電気代などの燃料費の項目が一番大きなウエイトを占めており、数値の上下動も激しいことに気づきます。

日本政府や日本銀行が待ち望んでいるインフレは、電気料金次第です。電気代が上昇すればあらゆるものが値上がりをします。その関連性を示すのが食料関係、消費者物価指数では燃料費に次いで多い項目です。

例えば、季節を問わずに市場に出回る野菜は、電気を使った温室栽培により供給されています。夜通し明るくして野菜に昼夜を勘違いさせ、成長を促すことも野菜の値段を上昇させる原因になります。

その電気を作る主な手段といえば、原油を燃やして蒸気を発生させ発電する火力発電です。

電気料金は原油価格次第で変動し、電気を使って供給されるありとあらゆるモノの値段も、原油価格次第で変わることになり、消費者生活に影響を与えるのです。

特に日本では、その原油価格と円の価格によって実際にGDPが上下動するため、かなり重要視されています。

原油価格の変動が為替と消費生活に与える影響

日本が原油価格に敏感なのは、輸入に頼っている理由もありますが、変動の影響が他国よりも大きいことにあります。例えば日本と欧州では「値上がり」した実感がかなり異なります。それは価格表示の違いによるものです。

「電気料金が10パーセント値上がりした」ときの価格変動を考えてみると、例えばユーロ圏で1.1ユーロだった場合、10パーセント上昇とは「1.21ユーロ」になります。少数点以下の上昇幅では、それほど影響がないという印象になるでしょう。

これが日本で考えると、10パーセント上昇ということは100円が「110円」になります。この調子で普段使うモノの値段が上がると、消費生活にはかなりの影響が出ますよね。

同じ値上がりでも、小数点以下しか変わらないユーロと整数が変わる日本円では、全く印象が異なるのです。

原油価格においては、1バレル50ドルが10パーセント上昇したとすると「55ドル」です。2017年は、すでに20パーセントも上昇をしています。この価格上昇に追随してモノの値段が上がる日本においては、ありえないほど急激に物価が上昇をしていること、お分かりいただけると思います。